第254話 去りゆくものから誠に託された言葉
「珍しいこともあるもんだな……まー当然か。隊長にとっては数少ない生き残った弟。しかも、それが自分と対等に話し合って相談できる人間だったということをこの半年で理解したんだからな……アンタにも肉親の情ってもんが有るんだな」
ランは小声で嵯峨に向けてそうささやくのを誠は聞き逃さなかった。
「高梨部長って……遼帝国の皇帝の息子なんですか?」
誠は思わずそうつぶやいた。嵯峨が遼帝国の皇帝なのは秘密になっている。この場では菰田はその事は知らないはずだった。誠はそれを気にしながらそう言ってどう見ても似ていない嵯峨と高梨を見比べた。
「まあね、僕の母は女に狂った父遼霊の子として産まれた。遼帝国に商社マンとして赴任していた祖父が遼霊との対面を許された時、母を気に入った遼霊は母を差し出すように祖父に言ったんだ。そして母は遼霊の慰みものとなり僕を産んでシングルマザーとして僕を育てた。祖父は一流企業のエリートだったけど、貞操観念の強いこの国ではそれがきっかけで出世の道を絶たれるなんてよくある話さ。でも、それが僕にはエネルギーになった。僕はひたすら母の為に勉強し、東大の法科から国防省に入った……おかげでこの未婚率80%の国でも『エリート官僚の勝ち組』として家庭も持てた……逆境は時に人を強くするものだ……」
高梨はあくまで穏やかな口調で誠に向けてそう言った。聞いているランは静かに突き出しの和え物を肴に日本酒を傾けていた。
「神前君。僕は君にはこの隊では一番期待しているんだ。確かに、君は才能では日野君にはかなわない。クバルカ中佐に手が届くとも僕には思えない。良いところ米軍の人体実験のおかげで力のほとんどを失った兄さんの相手が出来るようになるのが君の限界だろう。でも、それを悪いことと捉えるべきでは無いな。諦めなければ人は時に実力以上の力を出せるようになる。日野君には悪いが、彼女には慢心がある。クバルカ中佐は……たぶん、君なら力を使わずにクバルカ中佐を失意のどん底に堕とす方法を知っているだろ?」
そう言って笑う高梨の言葉に思わず笑顔を浮かべてしまう誠だった。
「ならば、君なら兄さんが与えるどんな過酷な状況も切り開く道を選べるはずだ。実際君はそんな道を選んで来たんだ。これまでだって君がその選択を取らなければ恐らく兄さんの運命は終わっていた。そして君もこの場には居ないだろう。この場に居る女性達も恐らくは無事では済まなかったはずだ……君はそう言う選択ができる力を持って生まれた。そのことに感謝してこれからも仕事に励んでくれ」
高梨はそう言うと静かに誠の手を握った。そんな二人を満足そうに嵯峨とランは酒を飲みながら見つめていた。




