第253話 惜しまれた人材を送る隊長
「それじゃあ、酒も回ったな!」
珍しくやる気のある嵯峨の言葉にこの場に居る全員が違和感を感じながらそのこれもまた珍しく心の底から嬉しそうな嵯峨を見つめた。
「今日、俺達の仲間が一人俺達の所を去る。それが世の中だとわかっちゃいるが、寂しいのが俺の本音だ。別に高梨部長が切れ者で今年度の予備予算や来年度の俺の予想をはるかに上回る装備や活動予算を確保してくれたから言ってるわけじゃないんだ。これまで俺達『特殊な部隊』には自分達を客観的に見るような人物は居なかった。俺は所詮隊長だから客観的なんてできる事じゃない。ランは情に流される、アメリアは……もう少しまじめに仕事をしろ。そんな俺達の馬鹿さ加減を高梨部長は決して一言で否定なんてしないで全部受け入れて必要な改善点だけを提示してくれた……そんな高梨部長が俺達の下を去る……いや、本来いるべき場所に戻るだけかもしれないな」
嵯峨はそう言って真剣な表情で自分を見つめて来る誠達を見回した。
「でもこの半年で俺達は変わった。高梨部長の仕事は確かに目には見えない。うちは他所の連中はまるで神前だけが仕事をしているだけの『特殊な部隊』だと今でも思っちゃいるが、その神前の活躍だって高梨部長の裏での気遣いが無ければありえなかった話だ。今回のかなめ坊がなんとかした三谷の不死人拉致未遂事件だが、あれもかなめ坊の無茶を見かねた高梨部長が色々と動いていてくれていたんだ。それにかえでの『神聖聖書教会』の事件だって、あんな捜査方法を県警がやったらすぐに問題捜査だってマスコミが嗅ぎつけて俺は懲戒解雇だ。それも全部高梨部長が動いてくれたおかげ……感謝の言葉もない……ありがとう、渉……」
ビールを手に嵯峨は自分よりはるかに小柄な高梨に静かに頭を下げた。これほどまでに素直に人に頭を下げる嵯峨を見たことが無かった一同はあっけにとられた。
「でも、高梨部長にはこれからがある。俺達みたいにいつ同盟機構や司法局のスケープゴートにされるか分からない独立愚連隊で朽ち果てさせるには惜しい人材なんだ。ああ、お前さん達はここで朽ち果てて良いよ。俺も含めて偉い人達は俺達の事を使い捨ての社会不適合者ぐらいにしか思ってないから」
ここで一笑い取ろうとおどけて見せる嵯峨だが、その瞳に潤む涙を見て誰もが笑顔を作るのが精いっぱいだった。
「まあいいや、俺も長い演説は嫌いだ。それより、ここにいる全員が高梨部長には恩があるはずだ。それぞれ言いたいことがあるなら言ってやってくれ。そして祝ってやってくれ。それが俺に言える言葉のすべてだ……それじゃあ、高梨部長の前途を祝して乾杯!」
嵯峨はそう言うとグラスを掲げて一息にビールを飲み干した。誠達は一度ビールをしみじみと見た後、嵯峨の涙の意味を心に刻みながらビールを飲んで嵯峨に合わせて座布団に腰かけた。




