第252話 主賓の到来と後悔
「いやあ、お待たせしちゃってすいません!隊長も僕なんて待たずに始めてくれてもよかったのに」
階段を上って来たのは小太りで小柄の丸顔で善意の塊のように見える顔をした管理部部長の高梨とそれに付き添う菰田の姿だった。
「馬鹿言うんじゃないよ。お前さんあってこそ今のうちがある……そして来年のすべての手柄はこれまでの半年のお前さんの手柄になるんだ。そんな功労者より先に酒を飲むなんて自称『駄目人間』の俺にもできるわけがない」
嵯峨は相変わらずタバコをふかしながら満面の笑みで高梨を迎えた。
かなめもカウラもアメリアも日頃何かと迷惑をかけながら嫌な顔一つせず引き受けてくれる尊敬できる高梨の存在には一目置いているようでそのまま脇にどいて道を開ける。一方、嫌われ者の菰田はかなめが一番下座に座れと指さして強制的に一人分の座布団がある下座の席に座らせた。
「それにしてもこうして月島屋で飲むなんて僕は初めてでね……いつでも誘ってくれたらよかったのに」
ランの隣の席に腰を下ろした高梨はおしぼりで手を吹きながら嵯峨とランを見比べるようにしてそう言った。
「そりゃあ、お前さんの帰りの足を心配してるんだよ。豊川駅まで都心を超えての電車通勤をしているお前さんに終電を気にしながら飲むなんて……そんなひどいことをする人間はうちには居ないよ」
高梨の登場に合わせたかのようにビールを運んで来た春子、お蔦、小夏の三人からビールを受け取りながら嵯峨はそう言った。
「なあに、その時は千要のビジネスホテルにでも泊ればいいだけの話だったんだ。でも……本当にいい店だ。役人連中で都内で飲むことはよくあったけど値段ばかりで中身が無い。その点この店には人の血が通っている……僕もそんな中に入れてもらいたかったな」
嵯峨にビールを注いでもらいながら高梨はしみじみとそう言った。
「いいじゃないの、それも。都会の人間に血が通っていないのはどこの国でも同じ。その分、形だけのサービスとやらで満足させていい金をとる。そうして経済は回っているんだ……税金の使い道を決めるのが仕事のお前さんがそんな精神論を語っていたらこの国は終わるよ」
皮肉めいた笑みを浮かべながら嵯峨はそう言うとグラスに入ったビールを手に立ち上がった。全員もそれを見てグラスを手に立ち上がるが、ただ、ランはビールは苦手なので日本酒のお猪口を手にちっちゃな体を伸ばして高梨の隣に立った。
『いい人も……こうしていなくなっていくんだな……それが世の中かも知れないけど……寂しいよ』
誠はそんなことを考えながらビールを手にちっちゃなランの隣にその長身で立ち上がった。




