第251話 『鬼姫』の策謀とハーレムエンドの予感
「じゃあ、かえでさんは15歳の時から人妻をたぶらかしていたんですか?それはちょっと……」
誠はさすがにそのかえでの初めての年齢に引いていた。
「ああ、たぶらかさせたのは義姉さん。そいつの旦那が義姉さんには邪魔だった。所詮、中級士族出身の婿養子で立場が弱いのにデカい顔して大蔵省の主計局長の椅子にふんぞり返っていたのが義姉さんには気に食わなかったそうだ……そこでかえでをけしかけてその妻……同じく大蔵省のまだ駆け出しの廊下鳶をしていた鷹司華子さんに手を出させたんだ。ああ、廊下鳶って言っても官僚機構に詳しくない神前には分からないだろうね。いわゆる議会に張り付いて議員や大臣の御用聞きをする未来のエリート官吏が最初に与えられる仕事だ。美人で若い華子さんに対し50に手が届く見た目も最悪の婿養子……義姉さんが破壊するには最適の夫婦関係だ」
とぼけた調子で嵯峨はそうつぶやいた。
『甲武の鬼姫』と呼ばれるかなめとかえでの母、西園寺康子。
嵯峨の剣の師であり、誠の母の親友でもあるが、かなめもかえでもそして策士として知られた嵯峨ですら手玉に取る女傑である。
そんな人物を敵に回した今度高梨の後任として管理部部長の椅子に座ることになる鷹司華子の夫には誠はただ同情することしかできなかった。
「ああ、アタシも電話では話はした。そん時の話題も半分は仕事、半分は私生活……別に変ったことじゃねーが、意外にもその私生活の話題のほとんどが神前……オメーの事を聞いてくるんだ。こりゃあおかしい、アタシはそう思った。日野の奴……又何か企んでいやがる。直接的に自分の性癖を晒すと神前に嫌われると知った日野は、今度は自分の応援団を増やしてからめ手でオメーを落とそうと考えているんだ。色恋に慣れたアイツらしいやり口だ。悪いが、西園寺やカウラやアメリアの相手になる女じゃねーな。しかも、鷹司はアタシより一つ上の35歳だ。面も見たが、あの顔と鷹司の血と家柄に惹かれて離婚してからも言い寄ってくる男には事欠かないらしーや。とんでもねーのがあの人格者の高梨さんの後任になるんだ……神前、覚悟しとけよ」
ランの鋭い視線に誠は怯んだ。
「もしかしてその人も僕を狙って……」
完全に女性には被害妄想に駆られている誠はそうつぶやく。
「それは無いんじゃないの?さっきも言った通り華子さんはお前さんとかえでの結婚応援団としてうちに来るんだ。ただ、かえでの事だ。お前の味見を華子さんにさせることは間違いないし、結果として華子さんがお前さんの子供を欲しがってかえでがそれを許可するという事態は十分に考えられる……よかったな。お前さん、もしかしたら妻が100人以上いる西モスレムのスルタンに勝てるかもしれないね」
本気で言っているのか冗談なのか分からない嵯峨の言葉に誠はただ黙り込むしかなかった。




