第250話 嵯峨の登場と『マリア・テレジア計画』の始まり
「おう、……って肝心の渉と菰田が来てないじゃ無いの……主賓が来なきゃ飲めない……ああ、今日はお蔦が運転代行を手配してくれるから大丈夫。俺の小遣いじゃあんな贅沢なもん使えないからね」
そう言って現れたのは嵯峨だった。そのままにらみ合うかなめとかえでを無視して誠の反対側のランの隣に座る。
「隊長……まだ高梨さんが来てねーから言うけど、でも本当にいいのかよ、高梨さんの後任。仕事ができるのが出来るってのは認めるが……ありゃあ甲武の軍部の嫌がらせだぞ」
ランは小声で嵯峨にそうささやくと春子とお蔦が運んで来た菜の花の胡麻和えを手に取った。
「あの国の軍部が気に入らない奴に嫌がらせをするのは昔っからの事だよ。あそこの不都合な事実を隠蔽することと自分の敵とみなすとあらゆる手段で嫌がらせをするのはあの軍隊のモデルになった旧日本軍から続く伝統だから。そんな事を気にしてたら甲武の軍人なんてやってらんないよ」
そう言いながら嵯峨はタバコを取り出して火をつけた。
「クバルカ中佐……知ってるんでしょ?たぶんその人はかえでさんの『マリア・テレジア計画』の中の一人ですよね?しかも、かえでさんのクローンである娘付き。いい加減教えてくれてもいいんじゃないですか?僕は一応かえでさんの『許婚』らしいですよ。また、かえでさんがその人と復縁して今度は僕が追い出される……そんなの嫌ですから」
これもまた小声でかえでに聞こえないように誠はランにささやいた。
「そーだな。オメーには知る権利があるかも知んねえ。隊長、話していーか?」
ランは和え物を口に運びながらタバコを吸う嵯峨に確認した。
「いいんじゃないの?それに相手は女でしょ?それに俺も隊長だってことで話はしたけど、あの人もお前さんとかえでの結婚には大賛成らしいんだ。というかアイツの『マリア・テレジア計画』の女全員の総意でかえでの夫はお前さんになることが決まっているらしい。良かったな……凄いハーレムだぞ。皇帝である俺を一瞬で超えるんだ。凄いもんだ」
感情のこもっていない嵯峨の顔には嫉妬の色が浮かんでいた。その普段は見ることができない嵯峨の顔に吹き出しそうになりながら、ランは座り直して誠の方を向き直った。
「相手はかえでの最初の女……いや、そのまえに西園寺の馬鹿が日野を女にしていたから二人目の女だな。そいつが今度高梨さんの席に座ることになる。娘は9歳だそうだ……となるとその二人の関係がいつあったのかは推測ぐらいは付くよな?」
ランは真剣な表情でそう言うと驚く誠に向けて笑いかけた。




