第249話 誠の席をめぐるランの大岡裁き
「おう、おせーじゃねえか」
先に隊を出て上座に腰かけていたランがそう言ってかえでに声をかけた。そしてすぐにその視線は箸をおいて回る春子と下座で貧乏ゆすりを続けているかなめの間を行き来した。
「それほど遅くなったとは思いませんが……高梨部長は立つ鳥跡を濁さずの典型みたいな人です。業務の引き継ぎを菰田曹長にしっかりするでしょうから少し遅れるんじゃないですか?逆にすることの無い惟基義父様の方が先につくかもしれませんよ」
相変わらずかなめの睨むように自分に向けて来る視線を無視してかえではランの隣のテーブルに腰を掛け、誠に隣に座るように促した。
「神前、そんな男女の変態の隣よりこっちに来い。これは上官命令だ」
鋭い口調で春子から受け取った割り箸をすぐに割ってテーブルを叩きながらかなめはそう言った。
「神前曹長の所属は第二小隊だ。第二小隊の小隊長は僕なんだ。だから上官命令をする権限は僕にある……姉さん違うかな?」
こちらも負けてはいまいとかえではかなめに言い返す。その口元にはこれまであれほど愛を語っていた姉に対する侮蔑の色が見て取れた。
「おいおい、喧嘩すんじゃねーよ。それにここでの一番の上官はアタシだ。神前、オメエはうちの女共と違って西とパーラの次くらいに気が利くから高梨さんのお世話を頼むは……アタシの隣だ。西園寺、日野。これならオメー等も文句はねーよな?」
とてもその8歳幼女の姿からは想像もつかないさっきのこもった鋭い視線を前にするとかなめもかえでも黙り込むしかなかった。
「さすがお二人とも貴族出身。上下関係を持ち出されると何も言えないのね……春子さん、今日の突き出しはなあに?」
ランを前にして何も言えないかなめとかえでを馬鹿にするような口調でアメリアは話題を春子に振った。
「今日は菜の花の胡麻和えなんだけど……丁度季節だし、お蔦さんの得意料理らしいのよ。あの人が来てくれてから本当に助かってるわ。色々とね」
そんな何か含むようなところの笑みだけを残して印象深い紫の和服姿の春子は階下に降りて行った。
「菜の花の胡麻和えか……もうんな季節なんだな……神前が来たのは夏……高梨さんが来たのは秋だ。季節は巡る……西園寺、オメーは公家の名門だろ?そんな季節感で荒んだ自分の気持ちを和らげる。そんぐれーの事が出来ねーと社会人失格だぞ」
誠が自分の隣の席に座ったのを確認するとランはいつもの説教口調でかなめに向けてそう言った。しかし、完全にへそを曲げているかなめはその言葉が逆に気に障ったかのように脇のホルスターの中の銃を叩きながら不機嫌そうにタバコを取り出した。




