第246話 いつもと同じでいつもとまるで違う部屋
いつもと同じ機動部隊の詰め所。そこにはかなめの姿は無かった。
断続的に射撃音が聞こえてくるということはかなめは射場に居るのだろうと誠は少し複雑な心境でそんなことを考えながら真面目に年度末の報告書と来年度の法術戦訓練の予定表の作成を端末で行っているかえでに目をやった。
かえではあれから誠にまるで話しかけずに仕事を夢中でしていた。
向かいに座るリンはこちらも誠に話しかけることも無くひよこから頼まれたこれまでの隊の法術師達の戦闘データをまとめる作業に没頭していた。
誠は耐えきれなくなって背後を見た。そこに目立つのは主を失ったかなめの机だった。
その隣ではいまだに端末の操作に慣れないアンに細かく指示を出すカウラの姿があった。
いつもと同じでいて、いつもと完全に変わってしまった機動部隊の詰め所。誠は小さくため息を漏らした。
「おい、神前!ちょっと来いや!」
ひときわ大きい機動部隊長席から声を掛けてきたのはちっちゃな隊長のランだった。誠はこの状況に耐えきれなかったので少しでも変化を求めてすぐに立ち上がるとランの所へと歩いて行った。
「おい、もっと近くだ……人に聞かれるのは面倒くさいんだ」
ランは机の前に立った大柄な誠に手招きして近づくように言った。
誠は仕方なく大きな机を回ってランの手が届くところまで移動した。
「あのなあ、何があったか知らねーが……たぶんオメーが原因なのは分かる。しかし、今のうちの状態じゃとても戦力にならねーぞ。西園寺はあの様だ。アイツは弾は全部自分の給料から天引きしてるからいくら撃ってもアタシは文句は言えねえが……あの乱れた射撃間隔。アイツは今心が滅茶苦茶になってる証拠だ。それと日野。アイツが口も利かずに真面目に仕事をしてる。あの、何かといえば雰囲気を大事にしろとか言って気を遣う日野がだぞ?なんでこうなった、神前言ってみろ」
ランは真剣な表情で誠に詰問してきた。
「実は……西園寺さんとかえでさんが僕の事で喧嘩を始めちゃいまして……」
そう頭を掻く誠にランは心底呆れ果てたという顔をした。
「オメエをめぐって喧嘩だ?そんな地球人しかやらねえ不毛な喧嘩……ああ、アイツ等は二人とも地球人の血を引いてるな……だからか……でも、アタシは遼州人、そしてオメエも遼州人だ。こういう時どうすりゃいいのかアタシには分からねえ……どうする?」
いつもならそれがまったく滅茶苦茶だったとしても解決策を言って来るランが心底困ったように誠を見上げてそう言った。
「本当に……どうすればいいのでしょうね……」
恋人達の居ない国、東和共和国の国民である誠とランにはこの状況を打開する策は何一つ思いつかなかった。




