第238話 うまい話には裏がある
「つうわけだから、よろしく」
そう言って誠を追い出そうとする嵯峨の態度にふと誠の脳裏に不安がよぎった。
「しかし、出来過ぎた話ですよね。印鑑を押すだけで八万円……隊長……何か隠してません?」
振り返った誠を見て嵯峨はようやく本性を現したようにニヤリと笑った。
「やっぱり気付いた?『責任者』ってことは何かあったら責任を取るってこと。つまり、うちで何かがどっかーんとなったらお前さんは管理不行き届きで警察行き……まあ、俺が手を回すからすぐ釈放になるだろうけど……懲戒免職だけは免れないだろうね」
さも当然のように嵯峨はあまりに酷すぎる誠の未来をそう表現した。
「うちさあ、二人ほどそのどっかーんの原因になりそうなのが居るのよ……」
頭を掻きながら嵯峨はここでようやくタバコを取り出して火をつけた。
「誰です?うちにテロリストになりそうな人……西園寺さんですか?」
誠は暗殺や爆破工作はお手の物だと日頃からペラペラしゃべっているかなめのたれ目が脳裏をよぎった。
「まず一人はあたり。アイツ、ヘビースモーカーじゃん。いつも吸ってる葉巻……ああ、シガリロの『コイーバクラブ』。あれだけじゃ吸い足りないとか言うのよ。月島屋とかでアイツが吸ってる『コイーバロブスト』がアイツのお気に入り。ただ、月島屋とか食い物の匂いや酒で嗅覚がマヒしてる場所ならいいけど喫煙所でアレを吸われると……喫煙者の俺でも嫌な気分になる。だから、アイツは倉庫で隠れて葉巻を吸ってる。アイツ時々『射撃訓練だ!』とか言っていなくなるだろ?その時の半分はそれ。倉庫にはミサイルやら迫撃砲の砲弾やらがゴロゴロしてる……当然火気厳禁なんだが……アイツがそんな規則守ると思う?」
嵯峨の説明にはこの半年かなめの行動に付き合わされることが多かった誠には嫌でも分かった。
「そしてもう一人がお前の尊敬する先輩の島田だ。アイツは馬鹿だからさ、タバコを吸いたくなるとそこが何処だろうが関係なくタバコに火をつける。あの馬鹿火器管理室は禁煙だって何度言っても平気でタバコを吸っていやがる。あそこの机の上にはリロードに使う火薬が散らばってるんだぜ。そんなところに引火したら……まあ、そん時は火器管理班も技術部の指揮下だから島田の馬鹿も懲戒免職になる。神前、お前は一人じゃないんだ。安心して立派な失業者になれよ。俺達公務員は失業手当が出ないからしばらくは貯金で生きることになるけどお前さんは実家があるから大丈夫。それに……それをある人物が望んでいるし、その方がお前さんにとっては幸せかもしれない」
嵯峨は良い笑顔を浮かべながら立ち上がるとそう言って誠の肩を叩いた。




