第237話 降ってわいたおいしい話
弁当を食べ終えた誠はかなめによる処刑が決まって落ち込んでいる島田に声をかけることもできずに本部棟に向った。
「おう、良いところで出会ったね」
そこにちょうど喫煙所からやって来た嵯峨の姿が見えた。
いつもの何か含みのある嵯峨の笑顔に誠はどうせろくなことを言ってこないと身構える。
「何もそんなに構えなくてもいいんじゃないの?良い話……給料が増えるような話なんだ……聞きたいでしょ?」
そう言うと嵯峨は誠を隊長室に連れて行った。
「なんです?異動ならこの前、僕は第一小隊から第二小隊に移動になったばかりじゃないですか。また異動の内示ですか?今度はどこに飛ばされるんです?」
明らかに信用できない嵯峨の薄ら笑いを見ながらふてくされたように誠はそう言った。
「だから、そんなに悪い話じゃないんだって。良い話。お前さんしかできない話。しかもお前さんの特別な資格を生かして資格手当や責任者手当が出るって話。今はね、資格手当は俺その資格は持ってないし、そもそも士官はそんな手当の類は士官の給料に含まれてるからって一切俺にはお金が入らないんだ。でも、神前は下士官だ。手当の類があれば全部出る。な?良い話だろ?」
満面の笑みで嵯峨はそう言った。こういう時タバコに手を伸ばすようであれば話が長くなって面倒を押し付けられるのがお決まりのパターンだがそれもない。誠は安心して嵯峨の言葉に耳を貸した。
「うちってさ、軍隊じゃない。それなのに軍隊並みの危険物を山ほど抱えてる。そうなると……消防がうるさい。だから『危険物管理責任者』と言うのを決めて、必要書類を豊若氏の消防署に提出しなきゃならないんだ」
嵯峨はあくまで明るくそう言って一冊のファイルを取り出した。そこにはいかにもお役所らしい書式の一番下に嵯峨の署名と捺印が押された書類が収まっていた。
「危険物管理ですか……確かに僕は『危険物取扱者一種』を持ってますけど……」
誠は恐る恐るそう言って嵯峨の反応を見た。嵯峨はその言葉を待っていたかのような満面の笑みを浮かべた。
「そうそれ、それがねこの『危険物管理責任者』で施設の長でない人間がやるには必要になるの。うちでその資格を持ってるのはお前さんだけだから。その責任者の仕事を譲ってあげる。そうすると『危険物取扱者一種』の資格手当三万円と『危険物管理責任者』の責任者手当が五万も出る。一挙に八万円の昇給だ。年功序列と年末の査定意外に給料の上がらない東和じゃこれ以上おいしい話はないんじゃないの?」
嵯峨のいかにも楽しそうな顔を見た誠は確実にこの言葉には裏があるとは思ったが、一挙に八万円の昇給があると聞かされてその魅力のとりこになっていた。




