第230話 突入直前
誠達はそのまま病院の自動ドアを入るとにぎわう窓口をそのまま臓器移植の行われる別棟に向う廊下へと向かった。
誠は何度となくジャンパーの上からショルダーホルスターに入った拳銃を触って気を落ち着ける。
「神前、銃を抜くのはまだだ。焦るのは分かるが今はそのときじゃねえ」
かなめは明らかに緊張している誠に向けて冷たい様子でそう言うが、その表情はこれから起きる捕り物劇が楽しくてたまらないというように笑っていた。
別棟に続く廊下の人影は減り、変わって誠達をじろじろと見つめる白人の男女が数人角ごとに立っていた。
彼等は誠達の存在をいぶかしげに見つめるが特に声をかけてくる様子も見られない。
「彼等にとってもここで事を起こすのは損だと考えているんだろうな……もうすでに連中は後戻りできない状況に有るんだ。あとはこのまま病室に踏み込めば終わりだ」
カウラは誠を安心させるようにそう言って誠にほほ笑みかけてくる。
先頭を歩いていたかえでが足を止めた。
目の前には白衣を着たクレメンスの専属スタッフと思われる白人のナースたちが忙し気に台車に乗せた手術機材を病室に運び入れていた。
「とりあえず全員身分証を取り出しておいてくれないかな。それと銃の準備もしておいた方がいい……相手は完全に追い詰められている自覚はあるはずだ。最悪の場合に備えておいた方が良いのは間違いないね」
緊張感を孕みつつもいつもの穏やかな調子でそう言うとかえではかえで好みの黒い刺繍の施されたジャケットの内ポケットから携帯端末を取り出してそこに司法局実働部隊の身分証を表示させた。
誠達もそれにならうが、一人、かなめだけはそれと同時にダウンジャケットのジッパーを下ろしていつでも銃が取り出せるような体勢になっていた。
「西園寺さん。ここは病院ですから……銃撃戦は勘弁してくださいね」
誠は何時でも銃を撃つ気満々のかなめに向けてそう言った。
「おい、神前。随分と偉くなったもんだな。相手は銃撃戦が大好きなアメリカ人だぜ?行きがけの駄賃に二、三人の頭を撃ち抜いても罰は当たるもんじゃねえだろ?相手は犯罪者だ。多少抵抗してくれた方が面白いじゃねえか」
相変わらずの『戦闘狂』の顔を浮かべるかなめの姿に誠はあきれ果てていた。
「お姉さま。ここは誠君の言う通りだ。ここは病院であって命を救うのが目的の施設なんだ。人を殺すのが目的の戦場じゃないんだ。それじゃあ、行こうか」
かえではそう言うと傍らに立つリンに合図してそのままバノンの手術が行われるであろう病室に向けて歩き出した。




