第227話 動く事態と誠の煩悩
島田を乗せた車はそのまま大通りを経て誠達の思惑通り真っすぐ国立左倉病院のある郊外へと向かった。
「やはり、急いでいる……予想通りの展開か。しかし、あのおしゃべりの島田准尉が自分の肝臓を売る相手に何を話すのか興味があるところだね」
かえでは思惑通りに進む状況に満足げに笑みを浮かべながら誠を見つめた。
「かえでさんが島田先輩に興味を持つなんて珍しいですね。普段は寮長の業務と仕事の話以外絶対に話さないのに」
そう言って誠は面白そうに笑顔を浮かべるかえでに目をやった。
「僕が島田准尉に興味があるって?そうだね、君が僕を性的に満足させてくれたなら一切その存在を無視することが出来る。その方が僕にとってはうれしいね。ただ、君はあまりそう言うことを早急に求める女性は好きではないらしい。僕は君から見捨てられるくらいなら死んだ方がいいんだ。だから……嫌やめておこう。本当に君に嫌われてしまう」
そう言って誠に手を伸ばそうとする手を止めてかえではわざとらしく咳払いをした。
考えてみればかえでの変態行為はあのデートの時からほぼなくなっていた。これまでは何度となく全裸徘徊で豊川署からランに身柄の引き受けに来るようにかかって来た電話もぴたりとやんだ。誠への濃厚すぎるセクハラも完全にない。誠の積極的に性的アプローチをしてくるのは一番がリン、続いて無修正動画を送ってくるカウラ、アメリアとかなめはその動画の準備をしていると言ったきり音沙汰もない。
『このところ平和だな……リンさん以外は。かえでさんもこうして普通にしていれば……ってたぶんそれがこの人の狙いだ。そうして僕から手を出したとたんに変態行為に走るのは間違いない。そうなれば僕も立派な変態になる。それは嫌だ。と言っても……かえでさんは完璧な美女だからな……そうして変態になってしまう人生もアリかもしれない』
誠はかえでの術中に自分が完全にはまっていることを理解しながらそんなどうでもいいことを考えていた。
車は商店の続く駅前大通を抜け、市役所や保健所、警察署などが並ぶ地域に入った。
「この市の元になった旧日本の『佐倉市』はこのあたりが城だったらしいが……そこにわざわざ盛り土をして城の無いところに城跡っぽい雰囲気の土地を作って見せる……東和人に住む遼州人の日本に対するコンプレックスには呆れるほかないね。そもそも、城なんて近世の戦略の要衝なんだから開発しにくくできているに決まっているんだ。それをわざわざ再現する……不思議な国だよ、この東和共和国は」
かえではそう言うと広大な駐車場の向こうに見える大きな国立左倉病院の建物を見やりながらそんなことをつぶやいた。




