第214話 医者が怖い不死人
しばらくの沈黙の後、島田はゆっくりと顔を上げた。その恐怖と怒りの複雑に入り組んだ表現しがたい顔を見て誠は島田が何を言い出すか少し不安になった。
「俺のバイクに傷をつけた糞教団の教祖の顔面に一撃くれてやるのは俺も賛成ですというかやらせてください。でもねえ、そいつは俺の肝臓を移植したとたんに死ぬんでしょ?俺はまだ人殺しはしたことが無いですよ。それに、移植手術って奴は医者とか看護師さんが居て初めて出来るんでしょ?その人たちはどうするんですか?俺は喧嘩には他人は巻き込まねえのがポリシーですから。俺がその糞教祖を殺す分には問題ないですけど、その手伝いをさせられる人間がいるって考えると……どうも……」
島田の答えは意外に常識的なように誠には感じた。島田は仲間を引き連れて喧嘩をするようなことは絶対にしないと常々誠に語っていた。ならば、何も知らずに善意で移植手術をして患者を死に至らしめる医師や看護師の事を島田が気遣うのも当然のことと言えた。
「その辺は問題ありません。その執刀医とそのスタッフは島田准尉が考える以上の悪党です。彼等は米軍の法術師に対する生体解剖などに関わった経験があり、その手術の結果その糞教祖が死に至ることを知った上でこの手術を引き受けています。もし、このことを極秘裏に行うことが出来たならばその執刀医とスタッフは糞教祖の生死にかかわらず多額の報酬を手にする契約を結んでいます。島田准尉が彼等に配慮する必要は何一つありません」
医師でもあるリンの説得力のある言葉に島田は静かにうなずくが、その顔は次第に怒りから恐怖が感情の多くを締め始めたことを示しているように誠には見えた。
「でも……手術って……俺一度も受けたことないんっすよ。まあ、不死人だから当然ですけど、病気もしたことがねえし、怪我は勝手に治るし……」
島田の手は自然と自分の腹をさすり始めた。要するに島田は医者が怖いのだ。まるで子供のような恐怖の表情に変わっていく島田の顔を見ながら誠はそう思った。
「別に施術開始まで貴様を放置しておく必要はない。患者である『神聖聖書教会』の教祖バノンと貴様が顔を合わせ、そしてそこにこの手術を行う執刀医とスタッフが揃う。その状況下ですでに『法術犯罪』の要件は成立しているからそこにいる全員の身柄の確保は可能だ。まさか、貴様は私達が貴様の腹がメスで切り裂かれるまで待ち続けるほど非道な人間だと思っていたのか?それはずいぶんと人を馬鹿にした態度だと私は思うぞ」
不安そうに自分の腹を見つめる島田にカウラは明るい笑顔を浮かべながらそう諭した。
「本当に……ただ、ベットで隣に寝て。医者がその部屋に入って来た時には突入してきてくれるんでしょうね?」
島田はカウラの両肩をしっかり握るとそう言ってカウラの顔を真正面から見つめた。
「約束する。仲間を見捨てるなと言うのは隊長の教えだろ?それに背くような隊員は『特殊な部隊』には一人としていないはずだ」
笑顔でそう返すカウラに島田は安心したようにカウラの肩から手を放してその場に座り込んだ。




