第212話 『全自動温泉卵製造器』と拳銃
「馬鹿やってんじゃねえよ、これからその母乳モノのビデオが好きな島田の馬鹿を騙そうってのに空気の読めねえ奴だ」
誠達の騒動を一瞥だけでやりすごしたかなめはそのまま倉庫を奥に進んだ。次第に熱気が強くなり、汗が流れる。
「島田先輩も……好きだったんですね。温泉卵」
話をはぐらかすと同時にこれからの自分の食生活の変化の定めをなんとか受け入れようとそう言って誠はかなめの後ろを続いた。
いつも製造中のフルスクラッチカーが置いてある場所には湯気を上げる『法術増幅触媒』の青い板が積み上げられた後ろで数名の整備班員が何かの機械を作っているところだった。
「いいか?卵は割れたら終わりなんだ。ここは丁寧にレールの上を一つ一つ転がすようにお湯に流し込むように配置する必要がある。そして時間が来たらこのセンサーで卵の内部の温度を感知してこの部品でそれをすくいあげる……問題はタイミングだ……おい、半熟卵の……」
部下に指示を出している島田の頭をかなめが遠慮なく蹴り上げた。
「何すんだ!……って西園寺さん?なんか用っすか?俺今忙しいんで」
いくら喧嘩最強の島田でもサイボーグのかなめや一流の法術師のかえでににらまれれば何もできない。ただ、面倒くさそうにふてくされたような表情をするのがせめてもの彼にできる抵抗だった。
「なんだ?うちは何時から食品加工工場になったんだ?オメエの仕事はシュツルム・パンツァーの整備で、今日、休日にもかかわらずオメエがここに居るのは『武悪』のアクチュエーターの交換と重力制御推進装置の交換作業の指揮監督と言うのが目的のはずだよな?それがなんで『全自動温泉卵製造器』を開発してるんだ?そんなに温泉卵が好きなら湯川原でも鬼濡川でも行って、本当の温泉場で本当の温泉卵を作れ。アタシ等の仕事は温泉卵づくりじゃねえんだ!」
かなめはそう言うとホルスターから銃を取り出し容赦なく実弾の入ったマガジンを叩きこんだ。
これは撃つ。
島田以外の部下達はかなめの異様なまでの殺気を感じて蜘蛛の子散らすようにハンガーへと逃げ出していった。その点、自称『不死身のヤンキー』で実際に不死人である島田は多少おびえた様子は見せていたもののその場に残って強がるような視線をかなめに向けて腕組みをしてかなめの前に立った。
「西園寺さん。確かにそうですけど……アレ、どうするんです?俺も隣の工場にアレの処理を頼んだんですけど……処理に相当手間のかかる素材でできているらしいんで一遍に処理するのは無理だって言われてあんだけ残っちゃったんですよ。それをただ置いておく……もったいないじゃないですか。それにうちの隊の特典の一つが昼飯に温泉卵食べ放題と言うのがある。だったらちゃんと簡単に温泉卵を作れるような装置を作る。それが整備班長として隊に対して俺が出来る貢献だと考えた訳で……」
ゆらりゆらりと実弾入りの銃をゆらすかなめに怯えた表情を浮かべながら島田は必死になって言い訳した。
『いきなり実弾入りの銃を取り出す西園寺さんも西園寺さんだけど、島田先輩も……それはっきり言って仕事をサボる言い訳になって無いですよ』
かなめと島田。どちらにも頭の上がらない誠は脳内でそんなことを考えることだけしかできなかった。




