第209話 まだ行われない犯罪……そして仕組まれる犯罪
「でも、今はバノンは何も悪いことはしてないってことよね。ただ、東和に来てこんな成畑の誰も住みたがらないお屋敷を買い上げて、末期癌の処置を施しているだけ。島田君のあの事故も県警に持って行ったらただの不注意による事故で終わっちゃうわよ。島田君当てに『神聖聖書教会』の連中がメールを送るまではこうしてみていることしかできないのか……ああ、退屈」
アメリアは遠くを見るのに飽きたというようにそのまま近くの建設廃材の中の太い水道管に腰を下ろしてそうつぶやいた。
「確かにそうだね。法律で臓器移植手術の施設を無駄に予約してはいけないと決まっている訳でもないし、その為の専門医を地球から呼びつけてはいけないということも決まっていない。今、僕達がしているのは『違法法術行使』と『法術師保護』と言う目的だけど、まだバノンはそれらに抵触する行為は何一つしていない」
そう言うかえでは難しい表情で遠くに見える邸宅に目をやった。
誠の目にもバノンの邸宅の前を発進した青いバンが見え。邸宅の前には相変わらず2代の白い軽乗用車と数人の人影が見えた。
「つまり、アタシ等のしたことは無駄だったわけか……つまんねえの」
かなめはそう言うとタバコに火をつけて空を見上げた。
かすんだ雲がゆっくりと風に流れていく。
「西園寺。バノンの邸宅を見たいと言い出したのは貴様じゃないのか?そんな無責任な態度でどうする!確かにまだバノンは罪を犯してはいない。ただ、確実にバノンは島田に危害を加える気でいる。確かに島田はその程度では死なないが、生きている人間から本人の許可なく臓器を摘出するのは立派な犯罪だ!それを未然に防止する行為のどこに無駄が有るんだ!」
いつものごとく鋭い視線でカウラはのんびりタバコをふかすかなめに目をやった。そんなカウラの言葉にかえでが不意に何かを思いついたような顔をした。
「なるほど、本人の同意が無ければ犯罪……そして、その施術の結果死に至る『不死人』の臓器移植と言うのも立派な犯罪だね。これはもしかしたら使えるかもしれないな……まあ、島田准尉には多少の無理をしてもらうことにはなるが。待っているというのは僕の性に合わない。向こうが動かないならこちらから動いてみるというのも悪くない選択だよ」
かえではそう言って誰をも魅了するさわやかな笑みを浮かべて一同を見回した。
「かえで、オメエの本性を知ってるアタシ等に媚びを売っても何にもなんねえぞ。それより、こっちから動く……アタシもそれを考えていたところだ。島田の協力?そんなもん銃を突き付けて脅せば嫌でも奴を協力させられるぞ」
誠は思った。
『似た者姉妹』
かなめとかえでの笑いあう姿に島田のこれからの運命がどのような結末を迎えることになるのかが誠の最大の関心事だった。




