第206話 教祖の邸宅と謎の三人の信者
「早速、一台……マークはきっちり赤十字にヘブライ語だ。完全に当たりだな」
かえでは目に仕込まれた望遠機能で誠には点にしか見えない白い車の車体に描かれた『神聖聖書教会』のエンブレムを読み取ってそうつぶやいた。
「そうね……私にも見えるわ。他の二つと比べて周りに民家も少ない……安心しきっているのかしら?でも、ここからだと丸見え……かなめちゃん、二台目の車の助手席の赤い髪の女、手に何か持ってるわね。私じゃ見えないのよ。何かわかる?」
そう言うアメリアもそもそも目を開けているのか閉じているのか分からない糸目で裸眼の誠には白い点にしか見えない二台の軽乗用車の乗員すら特定できる二人の視力に感心しながら双眼鏡を構えた。
そこには談笑する白人女性二人と男性一人が見えた。黒髪の女性は赤い髪の女からボトルのようなものを受け取って男から何か説明を受けているようだった。
「誠様。私に双眼鏡を貸してください」
背後から急にリンに声をかけられて驚きながら誠はリンに双眼鏡を手渡した。
「渡辺。そうだな、貴様は医師だっな。ならばあれが何のためのものか分かるだろう」
カウラはその背後でバノンが隠れ住んでいることがほぼ確定している邸宅に目を向けたままそう言った。
「あの大きさからすると……点滴の類とは考えられませんね。そもそも彼等が医療関係者であるならばあのようにその用具を気軽に扱うなどと言うことは考えられません。あそこにいる一番の重病人は教祖であるバノン本人。崇拝するバノンに対して行われる医療行為に使用するものをあれほど乱暴に扱うことはあり得ません」
リンはそう言い切ると双眼鏡を今度はかえでに手渡した。
「アレが医療用器具じゃねえとなると……武器か何かか?あの白人の男は間違いなく元軍関係者だ。首元にタトゥーが入っているが、そのタトゥーは前の戦争の時の冥王星基地攻防戦に参加した兵士が好んで付けたそれによく似てる……おそらくあの三人はバノンのボディーガードだ。巡回にでも行ってきたんだろうな」
望遠機能の内蔵された目で誠には白い点にしか見えない邸宅の前の車を見ながらかなめはそう言った。
「しかし、お姉さま。あの筒ですが、銃を入れるには不向きな形状をしていますよ。それにもしあの三人がボディーガードなら銃規制の厳しい東和でも護身用だと言い張ればこん棒などを持っているのが当然だと思うのですが……」
かえでは双眼鏡を見ながらそうつぶやいた。
「かえで、オメエは正規の軍人だから分からねえだろうが、一見、銃に見えない形をした銃。結構簡単に作れるんだぜ。弾さえ手に入れば後は雷管を叩く仕組みと短い銃身をつければ、ハイ出来上がりだ。東和の警察は確かに銃規制は厳しいが銃らしい形をしたものしか目が行ってねえ。だから逆にああいった銃にはどう見ても見えねえもんの方が銃である確率はたけえんだ。これは東和の常識だ。覚えておきな」
かなめは得意げに笑うとタバコを取り出して火をつけた。ただ、その動作の間も邸宅の前に停められた白い車から視線が離れることは無かった。




