第205話 遥か遠方の教祖のアジト
「お二方ともいいですか?まもなくバノンの邸宅が見えてきます……怪しまれないように距離を取りますのでここに駐車しますね」
リンはそう言って建設廃材の山の最後の一角と思われる場所にバンを乗り入れた。
「邸宅だ?そんなもん何処に有るんだよ。向こうには田んぼしか……ああ、あれか……」
助手席のシートベルトを外しながら文句を垂れていたかなめの目が田んぼの続く田園風景の一点に釘付けになった。
いがみ合っていたかえでとカウラも到着を告げられるとシートベルトを外してドアを開けて外に出る。誠はようやく解放されたような気分で外の春の柔らかい空気を吸って安どのため息を漏らした。
「ああ、あそこね……でも、かなめちゃんはサイボーグで目に望遠機能を仕込んでるし、私とカウラちゃんとリンちゃんは『ラスト・バタリオン』だから視力は10.0だから良いとして……かえでちゃんと誠ちゃんはどうやって監視するの?二人とも目は良い?」
ぴょんとその長身からは考えられない身軽さでバンを降りたアメリアはそう誠に話しかけてきた。
「僕は視力は正直普通かな。どちらも1.0だ。確かに……こんなに離れていては人の出入りなんて見えやしないよ。誠君は?」
かえでは日差しを遮るように手をかざしながらかなめやアメリアの見ているあたりに目をやった。
「僕は両目ともに1.5です。でも……確かに田んぼの真ん中に大きな建物があるのは見えますけど……近づくわけにはいかないんですか?」
誠の目にもその周りにある農家の平屋建ての建物と比べて明らかに巨大なまさに『邸宅』と呼ぶべき建物が豆粒のように見えるのは分かるが、それをただ見ていても何一つここに来た意味はないことだけは分かった。
「そう言うこともあるだろうと思ってな。野球の試合の日にも双眼鏡を持って来てあるんだ。少し待ってくれ」
カウラはそう言うとバンの後ろのドアを開けて自分の荷物を取り出し、中からそれなりに高価そうな望遠鏡を持ち出した。
「カウラさん。なんでこんなものを持ち歩いているんですか?野球に必要ないじゃないですか」
そのあまりに用意が良すぎる対応に呆れながら誠は双眼鏡を手に取った。
「ああ、あの菰田の仲間達が私達の試合の最中に私の写真を隠し撮りするために球場の近くのビルの屋上などで望遠カメラを構えていることがあることを知ってな。あとでその写真を押収するための監視に使っている。視力が良いと言っても1キロ離れた場所でカメラを構える人間の顔までは特定できるほどではないからな。これを使えばその表情まではっきり見える」
カウラがはっきりそう言うのを聞いて妙なところでカウラの貧乳に執念を燃やす『ヒンヌー教団』の面々に感謝することになるとは誠も予想していなかった。




