第203話 東和の地方の疎外性
「ランの姐御……舌の調子が悪かったんじゃねえのか?確かにてんぷらは良かったが、蕎麦は駄目だな。アタシは蕎麦屋にうどんがあるのは許せねえ質なんだ。あそこ、鍋焼きうどんがメニューにあったろ?その時点で期待は完全に消し飛んだ」
かなめは夏木屋の大きな店舗から足を踏み出すなりそう言ってなぜか関係ない誠をにらみつけた。
「そうですか?僕は大盛天そばを食べましたけど……おいしかったですよ。カウラさんはもり蕎麦四枚でしたけど……どうです?」
サングラス越しに威圧するような視線を送ってくるかなめから逃げるように誠は話題をカウラに振った。
「良くもなく悪くもない。確かに手打ち蕎麦の高い店でこんなものを出されたら二度と来ないだろうが、ここは手打ちと銘打っている訳でもなく、値段も高くない。クバルカ中佐のように最上級のものばかり食べている人にはたまにはこう言う物も食べたくなるんだろう」
カウラは今一つ納得がいっていないという顔でバンに向けて歩き始めた。
「そうかな……僕としてはそれなりに納得できるアジだったような気がするが……リンはどう思うかな?」
かえではここは蕎麦ではなくなぜかかつ丼を食べた。しかも途中、リンと長いことトイレに行って出てこなかったうえにまたあの小さなクーラーボックスをリンが大事そうに持ち歩いていたのが誠にはかえでが何を食べたかよりも気になる事だった。
「はい、私は粗食に慣れておりますので……ですが単純なかけ蕎麦と言うものは私の好きな食べ物です」
そう言うとリンはバンのキーを取り出して運転席に乗り込んだ。
誠達がバンに乗り込むと店を出る時にいきなりトイレに行きたいと言い出したアメリアが追い付き全員が揃ってバンは夏木屋の大きすぎるように見える駐車場から再び国道に戻った。
「それで、バノンの屋敷と思われるのは成畑のどのあたりに有るんだ?」
カウラは車が走り出すとともにそうかえでに尋ねた。
「バノンはアメリカ人だ。あそこは車社会だった……まあ、今や国民の99%に貯金や信用の無いあの国では車を買うことなど庶民には夢の夢……あそこの政体は今や甲武よりより貴族主義的な国だ。ただ、バノンやバノンを支える『神聖聖書教会』の幹部たちはその貴族の地位にある人間だ。当然、車で移動することを考えて場所を選んだんだろうね。成畑市四里塚……と言うことだが、かなり辺鄙な場所だ。近くにバスすら通っていない……まあ、だからこそバノンのような知らない人間にでもすぐに買うことが出来たんだろうね。東和の近郊から少し離れた土地の住人の地球人への警戒感は強い。少し便利な場所なら多少値切られてもそう言う土地の人間は遼州圏の人間に土地を売るものだ」
かえではかえでらしい鋭い観察眼でそう言い切った。
車は神戸交差点を右に入り国道から別れを告げて県道278号線を一路成畑に向った。




