第201話 教祖がマニアと出会う時
「でもそうするとバノンの信者の連中はこのことに気付くのか?連中の教義には20世紀の日本車について学べとか言うのがあるのか?そんな宗教聞いたこともねえし、今の地球じゃ流行んねえだろ?それにアメリカ人は政府から日本車の記録を抹消することを推奨されているからな。信者の連中にとってはこんな車の知識があるとは思えねえぞ」
かなめはネットを切って振り返ってかえでに向けてそう怒鳴りつけた。
「なあに、バノンはAIの開発ではその名を知られた巨大企業の経営者でもあるんだよ。当然、企業経営者同士のコネクションは持っていると考えるべきだな。島田君の車を買っている大富豪の密輸にはいつも米軍が絡んでいるんだろ?だったらその大富豪もアメリカ人と考えるのが適当だ。丁度今回大富豪が注文してきたのも『コルベット』。アメリカ車を代表するスポーツカーだからこれでその大富豪の身元も割れたようなものだね」
そう言って自分をにらんでくる姉の視線に柔らかい余裕の笑みでかえでは返答した。
「あの国の企業経営者はほとんどが顔見知り……まああらゆる業界の寡占が進んだ上に格差の拡大から新興の企業がほぼ不可能なあの国ではバノンはあの国の投資家の顔を全員知っていると考えるのが当然だろうね。そうなると車好きで知られる島田准尉のお得意様の大富豪とも知り合いと考えるのが自然だ。その大富豪がバノンが教義をどう思っているかは知らないが、コレクターのサガと言うもので自分の集めた車を見せびらかすことは当然するだろう。超富裕層はどんな違法行為をしても起訴されることの無いあの国では密輸なんて言う軽微な罪なんか問題にならないからね」
かえではそう言ってそれまで敵意だけで自分を見つめていた姉の視線に好奇心の色が出てくるのを見逃さなかった。
「バノンが島田准尉の存在を知った一つがこのサイトであるのなら、このサイトの23ページにある車を大富豪が所有していることも知っていて当然。そして島田准尉とアクセスを取る手段を手に入れることもまた簡単な話だ。バノンはいつでも島田准尉と連絡を取れる。そして島田准尉の人となりをこれまで信者をわざわざアメリカからの入国の難しいこの国に大量に派遣して調べ尽くしているはず。となれば確実にバノンの手のものから島田准尉のそのアドレスにメールが来るはずだよ。お姉さま……決してそれを見逃さないようにしてくださいよ……そうでなければ……ああ、島田准尉は死なないんだったね。でも、バノンは一週間以内に死ぬ。まあ、それでなくてもリンが言うにはもって後二月と言うのがバノンの寿命なんだけどね」
笑うかえでににらみつけるかなめ。車内は緊張に包まれた。
車はただ四車線の田園風景の中の道を真っすぐに進む。まだ、成畑までは距離があった。




