第183話 不死人の東和でのそれぞれの生き方
「でも、さっき言ったようにあの街の女の子たち……高給に惹かれて来る売れっ子たちは別としてほとんどが不死人なんだ。隣の三谷の日雇い労働者もそう……ああ、千要の栄町もそうだよ。この国のどの町の風俗嬢もほとんどが不死人だ。そして温泉芸者とか、まあそう言う仕事はどうしてもいやならゴルフ場のキャディーとか。それにこの国の食料自給率が50%前後なのに4000万人もいる一次産業従事者。これもほとんどが不死人……そんなの人口統計調査とかを見れば一目でわかる。第一、1億2000万人の人口を抱えるこの国で毎年生まれる人間が20万ちょい、死ぬのも20万ちょい。そんなの死ぬ人間しかいない地球じゃあり得ない話だろ?まあ、農業従事者は与党の良い票田になってるから放っておかれたんだろうね。補助金さえ出しとけば自動的に議員になれる仕組みが出来たんだから。農業従事者も政府のおかげであまり人には言いたくない自分が年も取れないどころか履歴書に書く欄のない他の仕事にはつけない人間だということを黙っていられる……利害の一致って奴だろう」
嵯峨はタバコに火をつけながらそう言った。
「耕せる土地を持ってる奴は良い。それで食っていける。漁業権を持ってる人間とコネのある奴は良い。海で魚を捕ればいいだけの話。しかし、それ以上の数の不死人がこの国に居る。俺やランのように履歴書に書く欄がある人間は良い。まともな仕事にありつけるからな」
そう言う嵯峨にランの目つきが鋭く変わった。
「アタシの履歴書は半分はオメーの偽造だろ?アタシは高校は出てねえ。大検を受けて明法大の文学部の夜間を出たのが事実だ。大検の必要書類の中学までの履歴は全部オメーの偽造書類じゃねーか」
ランの言葉に嵯峨は頭を掻いた。
「まあね、俺は前の戦争じゃ敵地に潜入するのに関係書類の偽造は散々こなした口だから。そんなの簡単……でもこの国で農地も漁業権も持たない不死人達。そいつ等はどうやって社会の一員になるのかな?どんな中小企業だって……コンビニのバイトだって履歴書が無いと受け付けてくれないこの国だよ?そいつ等にどうやって働けって言うの?誰も雇わないでしょ?だから女は身体を売り、男は体力を売る。不死人は餓死はしないが腹は減る。家や服が無ければ寒い。時には気晴らしをしたい時もある。でも肝心の金を稼ぐ手段はそれしかない。この国は売春を禁止している。でも、この国の不死人の女に他に金を稼ぐ手段があるか?死ぬ運命のサラリーマンは日雇い人夫を見下してる。でも他にいい仕事があるなら紹介してやってくれよ。それが法術の存在を隠し続けてきたこの国の残酷なシステム……それを維持してきたのが秀美さんが前居た組織である公安調査庁……それが……最近少しおかしいんだ」
嵯峨は急に真面目な顔をして灰皿にタバコを押し付けるとランを正面から見据えた。




