第181話 『嵯峨弁護士事務所』の始まり
「まあ、そんな臥薪嘗胆の一年が過ぎて司法試験も簡単に受かり、俺は弁護士になった。そして、俺が入った弁護士事務所でつまらねえ大会社の株主集団訴訟を断念させる交渉やら、ただ単に月に一度顔を出すだけなんていう顧問弁護士なんて言う仕事で金を稼いでいるその事務所の金稼ぎの上手さには感心すると同時にうんざりした。俺の暮らしてる安アパートの近くにはもめ事なんて山ほどある。でも、俺以外の弁護士さんは金にならないとかやくざ相手は危ないとか言って逃げて回る。金にならない?俺って金は必要な分あれば良いの。危ない?俺は元軍人だよ……危ないことには慣れてるんだ。だから、すぐさまその事務所を辞めて自分の事務所を吉原の街に作った。こう見えてもかなりそこの所長には引き留められたんだぜ……そこの息子が何回司法試験を受けても受からないから跡継ぎはお前に頼むって。あんな簡単な試験、落ちる方がどうかしてる……って合格率1パーセント以下なんだっけ?でも俺も茜も、そして時美ちゃんは三回落ちてるけどしっかり受かってる。落ちる奴は勉強の仕方が悪いんだよ」
嵯峨は皮肉めいた笑みを浮かべてランを見つめるが、ランはあの平均知能指数200越えの運航部の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』の女子隊員を常日頃から考えが足りないというほどの頭脳の持ち主である嵯峨からすれば当然の話なのだろうと納得した。
「当時は吉原はお前さんの大嫌いな薬と女で大金を稼ぐやくざの良い資金源だった。とてつもない額の上納金をそれぞれの店に要求して、店もまた女の子から散々金をむしり取っていた。それでも食っていけないとなると店の経営者は女の子に本番アリの違法なコースを客に勧めるように強要する。警察は警察で当時は法術師の警察官は自分が法術を使えることがバレると身分を失うことが分かってたから、違法に拳銃を持つことも躊躇しないヤクザは平然と法術で人を殺すことすらやりかねない法術師の組員をあの街に置いてデカい面をしていた……あの頃のあの街はそれはもう酷い有様だった……」
遠くを見るような目で嵯峨はタバコをふかした。
「そこで春子と出会ったのか?」
ランは春子がかつてそんな吉原の違法風俗店に勤めていたことは知っていたので嵯峨にそう言った。
「いいや、最初に会ったのは時美ちゃんの方。俺もその頃は弁護士としてそれなりに金を持ってたから金があると安い風俗店に行ってた。その店で最初に指名しようとしたのが春子さんだったけど時美ちゃんに無理やり拉致されちゃってさあ……」
照れ笑いを浮かべる嵯峨の顔にどこか懐かしさを感じているような雰囲気を感じ取っていつもならこんな場面なら激怒してその場を立ち去るランもつられて自然の笑みを作っていた。




