第180話 貴族を捨てた貴族の生きる糧
「で、俺は東和で家探し……ってわけだが、東都の家賃の高いのなんのって……。ああ、俺の嵯峨家は工業施設の集中してる泉州コロニーを荘園として持ってるから甲武の納税者の常に一位の常連だとか言いたい面だな、今のそれは。でも、俺はその金には手を付けないことにしてるんだ。あれは元々あそこの会社のもの。あそこの会社の従業員の汗と涙の結晶だ。そんなもんに俺のわがままの東和暮らしの金を使っていいとは俺は思わなかった。だから、一番東都でも家賃が安い吉原近くの築100年の4畳半の木造アパートに住むことにしたんだ」
そう言って嵯峨は自らの貧乏暮らしの出発点をランに明かして見せた。
「確かにあの辺りは安アパートが山とあるな……しかし、茜の奴、小学校から『東和女子御三家』の私立学校の聖女学院の出身だつて聞いてるぞ?あそこはそれこそお嬢様学校の頂点。しかも、天才クラスの頭の良家の娘じゃねえとは入れない学校だ。その学費はどうしたんだ?やっぱり違法カジノで稼いだのか?」
茜の上品さとその経歴を知っているランはそれを支える基盤……すなわち財力を甲武貴族の特権無しで嵯峨がどうやって手に入れたかに興味を持った。
「いんや、俺はまだ裏カジノの存在には気づいてはいなかった。そう言うところに出入りするようになったのは一年後に司法試験に受かって、半年の研修を終えて弁護士修行で勝手知ったる吉原や三谷の街をうろついて仕事を探すようになってからの話。それに、俺にはあまりこの隊では出さないが文化人としての顔がある……裏千家家元、西園寺流琵琶宗家、嵯峨流書道師範。どれも金に換えようと思えば何とかなる芸だな。それを使った」
嵯峨はあっさりとそう言うと再びタバコに火をつけた。
「伝統の国、甲武の最上級の文化人がやってくるという。文化を地球にすべて奪われたことにコンプレックスを感じているこの国の金持ち連中相手には良い金が稼げたよ。好きでもない奴の為に俺でも失敗したと思えるような茶を立て、時代劇の収録があると聞くと『琵琶指導』の名目で駆けつけ、役所が建て替えで看板が必要になるとなると好きでもない書体でその役所の名前の看板を書く。中でも茶は良い金になった……今でも『茶人』と言う肩書ならテレビのコメンテーターでも務まるんじゃねえの?俺。まあ、俺はテレビを見ないから興味無いけど」
あっさりとそう言う嵯峨を見てランはならなぜそちらの方で足りない金を補うという発想が嵯峨には出てこないのか不思議に思っていた。




