第179話 そして『人斬り』は東和にやって来た
「俺はたった一機で地球諸国の支援を受けて圧倒的数で襲い掛かる軍閥の飛行戦車群をほんの数分で全滅させて次々と軍閥を壊滅させていくお前さんには今の俺では絶対に勝てないことは分かっていた。俺の得意なのは暗殺だが……お前さんがお前さんが埋まっていた3億年前の地層からお前さんを見つけた時のその一警備兵に過ぎなかったゴンザレスが遼南共和国の独裁者になるためにお前さんに命じて政敵を次々と皆殺しにしていったやり口は知ってたからそんなの相手に当時の俺ごときじゃどうしようもないことも知ってた」
ランは思い出した。自分を目覚めさせてくれた恩以外の感情を持たず、でっぷりと太った禿げ頭のゴンザレスの道具として人殺しを続けていたあの遼南での日々の事を。そして、そんな日々から救ってくれたのが他でもない目の前にいる『駄目人間』嵯峨であるという事実を。
「俺は2年ほど自分を鍛え直すことにした。俺の実家の西園寺御所にはお前さんが怖がる『甲武の鬼姫』と呼ばれる義姉貴……西園寺康子と言う無双の怪物が居る。そもそも俺が遼帝国を脱出できたのも義姉貴のおかげだし、前の戦争がはじまったころには地球人じゃ考えられないほどの剣の強さになれたのもそのおかげだ。でも、その時は俺の力は不死人であること以外は封印されていた。すでにそのことを俺は嫌と言うほど知っていた。もう手加減は要らねえから鍛えてくれって義姉貴に頼んでね……でもまあ、所詮は俺は『最弱の法術師』なんだ……自分の限界を知るには十分すぎる時間だったよ」
嵯峨はそう言ってほほ笑むとタバコを揉み消した。
「自分の限界は分かった。当時甲武の政界で売り出し中だった義兄貴の足を引っ張るわけにはいかない。そこで、俺は茜を連れてこの東和にやって来たんだ。すべての情報の集まるこの東和ならゴンザレスとランに隙が出来るタイミングを見計れるかもしれない。俺が最初に軍務についたのもこの東和の大使館付き二等武官としてだ……この国の事情に付いちゃ一般の東和国民より精通してる。それに、俺も人の親だからね。あのどう見てもヨーロッパ人にしか見えない姿の為に学校で酷いいじめに遭ってる茜を見てられなかったんだ。地球を捨てたとか言いながら地球人の本能でいじめを忘れられない甲武の貴族幼年校なんかより、『奇麗な髪の色ね……よろしくね』で話が済んじゃう遼州人が暮らす東和の方がアイツの教育にも良いと思ってね」
そう言う嵯峨の珍しく見せる親の顔にランはつい吹き出しそうになった。




