第178話 乱れた嵯峨の生活とそもそもの事の発端
「そんなの怒るなよ……確かにお蔦が来る前はこの四人で日曜に会うのが定番だったんだ……月島屋は日曜定休日だし、うちの事務所も日曜は休みなんだ。まず、舟橋オート前で落ち合って。そこで数レースやって、ツキが無いなあと思ったらそのまま四人でホテルに……」
嵯峨は聞いても居ないのにぺらぺらとこれまでの情事の詳細を語り始めた。
「そんなどーでもいーことをアタシは聞きたいんじゃねーんだ。その時美と村上とか言う女の存在はお蔦と安城は知ってるのか?オメーが遼帝国皇帝でその戸籍の特性上何人妻を迎えても構わねーのは知ってて、しかも妻が百人いる西モスレムのスルタンとは犬猿の仲でアイツと張り合いたいと年中言ってるのも知ってての質問だ。ちゃんと答えろ」
ランの机に張り付いて嵯峨を見つめる鋭い視線のそれは犯罪者を追い詰める刑事のそれだった。
「うん、知ってるよ。というか、お蔦は自分の技を受け継いでくれる人がいると言って喜んでたし、秀美さんは俺と一回すると動けなくなってそのあと介抱したり慰めたりしてくれる時美ちゃんとは気が合うみたい……ああ、時美ちゃんと俺がそう言う関係にあったことは秀美さんも前々から知ってたみたいだから。この前二日休んだ時はみんな仲良く全員うちの屋敷で楽しんだもんだ」
嵯峨はそうするのが当たり前だという風にさらりとそう言ってのけた。
「安城が知ってる?そして茜とは昔馴染み……その時美とか言う女弁護士は何もんだ?いまさら隠し事は無しにしよーや」
そう言うランの顔には薄ら笑いすら浮かんでいた。嵯峨はタバコを天井に向けて吹き上げて語り始めた。
「俺がこの国に来たのは29歳の時……俺の所属していた甲武軍の負けで戦争も3年前に終わり、その間3年間は俺は米軍の実験動物としてアメリカのネバタの砂漠の実験施設に居た。そこの研究員のまるで人をひととも思わない態度と、いずれは俺以外の実験動物をこの国から調達するという言葉に自分の行いを思ってそのままそこで永遠の生と死を繰り返すつもりだった俺はその施設周辺を俺の今でも使える攻撃的な法術では一番攻撃的な『空間破砕』で次元断層に突き落としてそこを抜け出して甲武に戻った」
嵯峨はランの知っている自分の実験動物として米軍に扱われていた過去を語った。
「甲武に帰った俺が知ったのは俺が戦った俺の生まれた国、遼南が遼南共和国と名を変えて内戦状態に陥っているという話だった。大統領のガルシア・ゴンザレスには首都の近郊で自分が好き勝手出来るだけの権力が握れればそれで良い。国はバラバラで各地に軍閥が割拠し覇を競う。ラン、そのゴンザレスがあの国の頂点に君臨できた最大の理由であるお前さんにはその辺は詳しく説明する必要なんかないかもしれないがね」
そう言って嵯峨は力なく笑った。ランもまたそれに応えるように微笑みを返した。
内乱状態の遼南共和国。それが一応、国として機能していたのは他でもないランと彼女の愛機『方天画戟』の存在を恐れて割拠する軍閥たちは首都から好き勝手に自分達に金品を要求して来るゴンザレスに逆らえなかったから。
その事実を思い出してランは悲し気な笑みを浮かべた。




