第175話 焦る『駄目人間』
ここは豊川市郊外、『菱川重工豊川』敷地内の司法局実働部隊の隊長室に頭を抱えたやけに若く見える二枚目の男の姿があった。
「やべえ……いつかはバレるんじゃないかなあとは思ってたけどこのタイミング……俺もそこまでは読んでいなかったわけじゃないけど……でもこのタイミングは無いんじゃないの?」
その制服の特務大佐と言う一般の軍ならば少将に当たる階級にしては若すぎる男の表情は苦悶に満ちていた。
司法局実働部隊隊長嵯峨惟基特務大佐は気配を感じて顔を上げると隊長室を見回した。
この一月余り、それまで『ゴミ屋敷』と隊員達から見下されていた隊長室の衛生環境はそれなりに普通の事務所レベルの清潔さまで改善していた。
彼を管理して最初はこの部屋の掃除を手伝ってくれていた娘の茜は、昼になるとカップ麺の空き容器や気が向いて書き出した書の墨汁や、散乱する風俗雑誌の片づけを見ているだけで一向に手伝おうとしない見た目は25歳、実年齢47歳の父に呆れて月に一度くらい簡単にゴミを捨てるのを手伝ってくれる程度に嵯峨の事を諦めていた。
花街一の花魁であるお蔦の来訪だった。
彼女が岡場所の女郎時代から関係のあった嵯峨がこのゴミ部屋の主と知った時にお蔦は涙を流して自分が片付けると言って聞かなかった。
今ではその時の嵯峨の策謀で実の娘の茜に月管理費込み2万円のアパートから義理の娘である日野かえでの計らいで将軍の身分相応の屋敷と呼んでいい家に暮らす嵯峨の家にはお蔦も同居し、さらに昔からの関係のあった司法局実働部隊の隊員達の憩いの場である焼鳥屋月島屋の女将である家村春子と以前から嵯峨が粉を掛けていた司法局実働部隊とならぶ司法局の実力行使部隊の隊長安城秀美少佐を巻き込んで嵯峨は完全にハーレム生活を送っていた。
そのことは全隊員が知っていることだからそのようなことが表に出ても『プライドゼロの男』を売りにしている嵯峨にとってはまったく気にする事では無かった。 この部屋の劇的変化をもたらしたのは嵯峨を慕って嵯峨の青春時代を過ごした遼州系第二惑星の貴族制国家甲武国からはるばるやって来た元花魁だった。
ただ、お蔦がきっかけで始まったハーレム生活の結果。それまでのだらしない生活が出来なくなって月に二日は強制的に床屋に行かされたり、部屋をこうして自分で片づける習慣を強制されたりするなどと言うのは少し嵯峨としては面倒なことが増えたなと考えていたが、それでも金のない嵯峨が千要の格安風俗店でこれは外れだなと分かる嬢の接客を受ける日々を送っていた時に比べれば、相手は元甲武一の美女で床上手として知られたお蔦を始め、司法局実働部隊の隊員達も理想の義母と噂していた春子や、司法局一の才色兼備の女サイボーグである秀美との関係を維持するためには仕方のないことだとあきらめもついていた。
どこまでも女にだらしのない『駄目人間』。それが嵯峨惟基の日常生活を知るもののすべての嵯峨に対する共通認識だった。




