第169話 邪魔された女、邪魔しに来た女
「田代!」
突然バスルームの扉が開き短めのバスローブを着たシンディーが部屋に飛び込んできた。シンディーはすぐにかなめとカウラの存在に気付き、すぐにかなめの隣に置いてあるコートに向かおうとしたがその両肩を戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』の男性アスリートを凌駕する腕力の持主のカウラによってそれを遮られた。
「これはこれは……ごきげんよう……それにしてもはしたないですわね。内ももにおつゆが垂れてますわよ……殿方の一体何をそこはお望みなのかしら?少しは恥じらいと言う物をお持ちになったらいかがですの?これですからアメリカの人達とはあまり関わり合いにはなりたくはございませんの」
かなめの話す古風なイギリス英語とその内容の下品さのギャップに『ラスト・バタリオン』として敵国地球の公用語である標準的な英語を脳にインプリントされているカウラは吹き出しそうになった。
「カウラ、笑うんじゃねえよ。アタシが女学校で習ったのはビクトリア朝の時代の英語だ。だから、今みたいにネット翻訳を使わねえで英語をしゃべろうとするとそうなるんだ。仕方ねえだろ」
急にスラング交じりの下品な英語に切り替わったかなめを見てシンディーはただ押し黙ったまま、内ももを垂れて来る分泌液をバスローブで拭っていた。
「よう、邪魔してるぜ。と言うか、アンタがこの遼州圏に邪魔をしてるんだがな。アタシ等はこういうもんだ」
かなめは内ポケットから司法局実働部隊の身分証を取り出した。それに合わせてカウラも身分証を取り出す。
その表示を見てシンディーは舌打ちをするとそのままスイートベッドに腰かけてかなめ達をにらみつけた。
「遼州同盟司法局……いつから私達の行動を監視していたのかしら?」
そのイントネーションにテキサス訛りがあるのに気付いてかなめはニヤリと笑う。
「おいおいおい、あの街で白人の女が三人、もう一月も同じ時間に歩き回ってる。そんな情報本当に誰も知らないでいるもんだと思ってたのか?おめでてえな。オメエ等すっかりあの街じゃ有名人だ。あの街に公的調査機関で一番詳しい法術特捜の主席捜査官殿がそのことに気付かなかったらオメエは今月末には最悪この世の人ではなくなってるんだぜ?ここに来たのがアタシ等だったと感謝してもらいてえぐらいだな。それとこの男にも感謝すべきだ。オメエの最低限の目的である自分自身が不死人になること。どうやらコイツはその線でぜひ話をつけたいってことなんだ……そうなるとアタシ等としても後々便利なことが多くてねえ……長い付き合いになるんだからそんなにつんけんするんじゃねえよ」
相変わらず汚い英語でかなめはシンディーに向けてそう言った。標準的な英語と日本語しかしゃべらないカウラは英語も日本語もスラングを多用するのが好みなかなめに呆れつつ、にらみ合う二人を緊張の面持ちで見つめている田代に目をやった。




