第165話 狙い通り動く標的
田代がシンディーとタクシーの拾える大通り、つまりカウラの『スカイラインGTR』の停めてある場所まで歩き始めるのをかなめとカウラは静かに見送るとそのまま路地から出てその後ろに続いた。
相変わらず携帯端末をかざしてそれに英語で話しかけるシンディーに対し、田代は時にその翻訳よりも早く答えを返すのが見える。
「田代の馬鹿が……あれじゃあ英語が分かるってことがバレるぞ……今の時点でそれがバレるのはまずいんだよ」
かなめはそう独り言を言いながらタバコを投げ捨て苦笑いを浮かべた。
二人は良い雰囲気でそのまま簡易宿泊所の並ぶごみごみした街から大通りに出た。かなめとカウラはそのまま小走りに車に乗り込む。
「しかし……あの女を見逃すことに本当に意味があるのか?三人ともに逮捕する。私としてはそちらの方が今後の同様の事件に対する予防効果があると思うのだが……」
カウラはまだシンディーを不問に付すという茜やかなめの判断に納得できない様にハンドルを握りしめた。
かなめは何一つ答えることなくそのまま背後でタクシーを待つ二人を観察していた。
「来たな……田代一人じゃ乗車拒否されるだろうがあの女がいるからタクシーもこの街で停まってくれる……田代の奴。軍を辞めてから初めてのタクシーなんじゃないのか?まあ、この400年間この国のタクシーの内装なんてほとんど変わりはねえから困らねえだろうがな」
そう皮肉めいた笑みを浮かべて言うとかなめはカウラに車を出すように指示を出した。
車はそのまま段ボールを大量に積んだリアカーや路上に寝転がるぼろ布のような男を轢かないように慎重に走り続けた。
「全くここが宇宙の経済大国東和の道路なのか?見ていて泣けて来るぞ……甲武の道路の方がよっぽどマシだ。まあ、甲武じゃ車なんか軍か政府のえらいさんぐらいしか持ってねえから関係ねえんだけどな」
そんな独り言を言うかなめの視線の中で右にウィンカーを出すタクシーの姿が目に入った。
「隊長ならそこに見えるラブホテルに直行するだろうが、あの女はそんなことはしないだろうな」
タクシーの真後ろをついてハンドルを切るカウラはそう言って薄ら笑いを浮かべた。
「お高く留まりやがって。あのシンディーとか言う女も本心じゃ遼州人を見下してやがるのさ……その浅はかな考えがホテルの部屋に付いた途端にひっくり返る……こりゃあ愉快だ」
かなめはそう言うとそのまま都心部へ引き返していくタクシーを見つめていた。周りの薄汚いビルが次第に真新しいものへと変わっていく様がある意味この東都と言う街の本質を表している。かなめにはそんな風に思えてならなかった。




