第164話 食いついた標的
田代は自分に近づいてくる好みの白人女性に向けたくなる笑顔を押し殺しながらただ黙って立ち飲み屋の看板を眺めていた。
女はまず田代の顔を見て不思議そうな顔をした。
その姿に田代は昔の遼州独立戦争の時を思い出したかのようにまずは、女に眼をやった。
不信感と、不思議さをないまぜにしたような顔に女は戸惑ったような顔をするとすぐに携帯端末を取り出した。
『なんだよ、別に英語で喋っても良いんだぜ。俺は理解できるからな。まあ、それは後でのお楽しみで……アンタの独り言が俺には全部わかるってことをホテルの部屋に入るまでバレないようにするのが……あえて言えば心配なのはそれくらいか』
そう考えると自然と田代の顔に笑みが浮かんだ。
女はその笑みを自分に対する好意と受け取ったのか、若々しさといかにも業務的な笑顔を浮かべて携帯端末に英語で一言二言話しかけた。
『失礼ですが……道に迷ってしまいまして……』
田代は久しぶりに聞く携帯端末の翻訳機能の発する言葉が完全に女の話す声色と一致していることに満足した笑みを浮かべると静かにうなずいた。
「そうかい、あんたはゲルパルトかな?外惑星かな……それとも……」
とりあえず常識的に東和に簡単に入国できる白人女性がいる国の名前を挙げて緊張をほぐそうとする田代に女は首を振ると再び携帯端末に話しかけた。
『そんな道具に頼らなくても俺はアンタが言ってることが分かるんだよ……アメリカから来たんだろ?しかもテキサスから。そして名前はシンディー……まあ、そのことを分からねえふりをする方が疲れて来るよ……まあ、あの警察の姉ちゃんからはもっと詳しいアンタの情報を俺は聞いてるし、アンタが俺を拒めばどんな運命が待ち構えているかも俺は知ってるんだけどね』
田代はそんなことを考えながら携帯端末がアメリカのテキサスから来たシンディー・カーチスだと名乗るのを静かに聞いて笑顔を浮かべた。
「ああ、俺の名前は田代だ……永遠の25歳……アンタは知らねえかもしれねえが……この国の戸籍係にそうしろと言われているからそうしてる……年が取れなくてね……地球人からするとそれも病気かね?」
敢えて冒険気味に田代は自分が不死人であることをシンディーに明かして見せた。その言葉にシンディーの顔が驚きと喜びに満ちたものに変わるのを田代は見逃さなかった。
『はあい、いっちょ上がり。これで俺もこの街とおさらばだ。そして、シンディーさんよ。アンタもアメリカとはおさらばになるぜ。今の放射能だらけの地球とは永遠におさらばできるんだ。これ以上の幸せはないだろ?』
田代はそう言って笑うとシンディーが行きたいところがあるからタクシーの拾えるところまで案内してほしいと英語で話す様子を笑って見つめながらかなめ達が隠れている路地に向けて軽く合図を送った。




