第163話 正規の手順を踏まない司法取引とその後の展開
「なんだよ、カウラ。ノリが悪いじゃねえか」
そのまま田代を立ち飲み屋の前に置き去りにすると簡易宿泊所の隙間の路地に入り込んだカウラの後に続いて田代の様子を監視しつつ、彼に近づく人間がいれば見通せる場所まで移動した。
「我々の任務は何時から結婚相談所になったんだ?貴様はあの髪の短い目の大きいのが特徴の元アメリカ軍人の女とあの田代とか言う男をくっつけたがってるようにしか見えないのだが。それは、あの女を見逃せということか?それは任務の一つではないだろ?」
カウラは不機嫌そうにそう言うがかなめは吸い終えたタバコを地面に投げ捨てて上機嫌でカウラを見つめた。
「アタシ等は法術特捜の指示……つまり茜の指示で動いている。茜はアタシが例の女を見逃して他の女は逮捕するという提案を拒否しなかった。つまり、茜もあの女を無罪放免でこの東都から出て行ってもらうことには同意したってことだ。正規の手続きは済んではいないがいわゆる『司法取引』って奴だ。あの女は永遠の若さとそれなりに頭のキレる二枚目の旦那と東和の居住権を手に入れる。ただし、それはタダでやるほどアタシも甘くはねえよ。代わりにアイツの飼い主について、田代経由で色々と聞き出す予定だ。田代の奴はアタシが思っていたより使えるな……あのテキサスの金持ちの嬢ちゃんも飛んでもねえ奴と出会っちまったもんだ」
そう言ってかなめは再びタバコを取り出して火をつけた。
「そうか?あの三人の代わりはいくらでもいると思うのだが……その度にこうして私達は嵯峨警部の捜査に協力することになるのか?それはさすがに手に余るぞ」
カウラの問いが自分の思っていたレベルをあまりに下回るものだったのでかなめは思わず加えていたタバコを落としそうになった。
「おい、カウラ。オメエは本気で言ってるのか?今回の件で二人がどこかの街に落ち着いた辺りで田代経由であの女からテキサスの嬢ちゃんの手口を全部聞き出すだけで話が済むわけがねえじゃねえか。当然、その情報はアメリカに対して警戒感の塊の組織の公安調査庁に提出することになる。連中はどう考えるかね……地球圏の政治を握れる程度の金持ちが金に物を言わせて三谷の不死人を拉致して不死人になって地球圏で独裁者になる……東和にとってこんな脅威が他にあるか?今のところ地球人の若い女が不死人になる可能性があることを知ってるのはアメリカぐらいだ。そこで裏にそれなりの政治力のある人間がいるアメリカからの入国者は東和の入管で全員シャットアウトだ。そうなれば無理して東和に入国しようとするそう言う連中のお世話をするのはうちや法術特捜じゃなくってより攻撃的な安城さんの公安機動隊が担当することになる……あそこはアタシ等みたいに甘くはねえぞ。裁判なんて関係ねえ。少しでも不穏な動きを見せればすぐ射殺。地球人は射殺すれば死ぬからな。それが怖くねえ奴が来る分には……そんなことアタシの知ったことかよ」
そう言うとかなめは落としかけたタバコを持ち直しただ、店の前を行ったり来たりしている田代に近づくボブカットの胸の大きな白人女性に目をやった。




