第161話 エサを用意して待つ二人
「ちゃんと鍵はかけとけよ……島田ご自慢の防犯機能付きのしっかりした奴だからここらでウロチョロしてる車上荒らしも手が出ねえだろうがな」
三谷で一番タクシーの拾いやすい道に停めた愛車の『スカイラインGTR』を心配そうに見つめるカウラに向けてかなめはそう言った。
「で、こっちのほうまであの姉ちゃんを誘導してくればいいんだな?と言ってもこの街でタクシーに縁のある人間なんて居ねえからな。どうせあの姉ちゃんはこの道以外を通ることは考えられねえ。まあ、姉ちゃんの気が変わらねえように俺としてもうまくやるさ」
田代はそう言ってかなめに向けてニヤリと笑う。
「そうだな、400年前はそれが本職だったわけだからな。勘が鈍って……いや、こういう仕事は身体が衰える以外に鈍りようがねえもんだ。アタシの同僚たちもみんなそうだった」
そう言うとかなめはポケットからタバコを取り出し悠然と火をつけた。
まだ昼には少し早い時間帯。この街では一番人通りの少ない時である。
路上に人影はなく、ただカラスが路上生活者がほとんど持って行った食べられそうな物のなかでも手を付けなかったような腐りかけの弁当をついばんでいる。
「とりあえず連中はこの時間帯から行動を開始して街の全体を一通り回った後、それぞれに分かれて男を物色する。だいたい、あの連中もこの街の人間には偏見があるからその中でいかにもそれっぽいのを連れ込むんだが……大体それは外れ。不死人じゃなくてただ食うに困ってこの街に流れてきただけの普通の遼州人……それがこれまでのパターンだ。でも今回は本物の不死人のエサなんだ。しかもアイツ等好みにふろに入って髭まで剃ってある。面も白人連中が好きそうなバタ臭い顔。食いつかねえほうがどうかしてる」
得意げにそう言うとかなめはそのままタバコをくわえたまま三谷の街の中心部へと歩き始めた。
「バタ臭い顔って……まあ、この面のおかげで遼州独立戦争の時は白人の地球人の兵隊の連中も安心して俺に秘密情報をペラペラしゃべったのは事実だから否定はしねえけどな」
そう言って田代は苦笑いを浮かべた。
「それにしても本当に今の時間で良いのか?これだけ人がいない時間帯から連中はなんで動き出すんだ?この街が一番にぎわうのは日没前後。日雇い労働者が現場からこの街に帰って来た時間帯だ。そもそも連中はなんでそんなことも知らないんだ?」
不思議そうにエメラルドグリーンのポニーテールをなでながらカウラはかなめにそう尋ねた。
「なあに、連中は数を集めている訳じゃねえんだ。別に永遠に使い減りのしない労働者を集めてピラミッドを作ろうってわけじゃねえんだからな。連中は一人、飼い主が不死人になる行為を行う際に不快に思わない程度の見てくれの不死人を用意しろと命じられているんだ。だったら、顔の見分けもつかない薄汚れた現場帰りの日雇い人夫の顔を一々のぞきこんで不審に思われるより、今ぐらいの時間帯に金は十分稼いだから暇をつぶしている男を遠くから見て選んだ方が賢いというところなんだろうな……アタシもそこまで考えてんだよ。カウラ、いい加減アタシを馬鹿にするな」
怒った口調だが、すべてが順調に言っている現在、かなめの表情には余裕の笑みが浮かんでいた。




