第156話 使い捨ての法術師の過去と未来
「そうだな。その日、俺は上官に呼び出されて基地司令室に向った。そこで渡されたのは退官辞令と退職一時金の入った封筒。俺はもう用済みだ。俺はそう思った。あまりに突然だったので俺はつい笑っちまったね」
田代はそう言うとグラスの融けた氷の入った水を含んだ。
「軍人……普通の死ぬ軍人なら退官年齢は将校なら65歳だ。当然、その時にはこれまでの経歴があるから再就職先には困らないはず……しかし、俺が端末で自分のこれまでの経歴の欄を見るとまるで空白なんだ。俺はこの国が焼き畑農業をやめて変わり始めた時代からずっと兵隊をやってきた。それ以外の仕事はしたことがねえ。その為に必要な知識は得たが、その時取った資格の欄まで空欄になっている。しかも戸籍年齢は25歳。俺が25歳?そんなわけがねえだろ?」
まるで自分自身にそう言い聞かせるように田代はそう言って笑った。
「そのまま、隊舎を追われた俺は寮にあった荷物をまとめるとそのままあの街に行った。地球人にとっては『悪夢の21世紀』だが、俺にとっては最高の時代だったんだ。その時には一国が核戦争で負けた国の国民が一人残らず核の炎に焼かれるたびに出る手当で吉原のキャバクラに飲みに出かけたもんだ。そして、その隣の三谷の俺と同じ不死人でありながら絶対に日の目を見ることの無い存在が居ることも知っていた。だから、俺はその一人に加わる覚悟を決めて三谷に行った。そして……それからはずっとあの街の日雇い労働者だ。他の仕事に就こうにも履歴書に何も書くことがないんだからな。そして年齢もいつまでたっても25歳。これからもそれがずっと続くもんだと思ってたが……どうやらアンタの話だとそうじゃないらしいな」
田代はそう言ってかなめを見て笑った。
「それはオメエの努力次第だな。まず、例の女をその気にさせねえと話にならねえ。まあ、オメエならそれくらいの事は出来るだろ?その女も特殊工作員の経歴を持ってるがオメエに言わせれば所詮限りある命でその経験なら出来て当然というくらいの実績だ。オメエなら簡単に手玉に取れる。そうすれば、そいつが飼い主から経費として渡されたそれなりの金を持ってこの街を二人で出ろ。アタシ等が関知することじゃねえ。あと二人のオメエに選ばれなかった女二人は……アタシの同僚の手で『法術関連犯罪者』と言うことで逮捕されて、裁判にかけられ、牢屋に入ることになるが……あの二人もその危険位は知っててこの仕事を受けたんだろうから当然の話だな」
かなめはそう言うとタバコを吸い終えてゆっくりと立ち上がった。




