第149話 例えば施設が確保できたとしても
「なるほど……興味深い話だったね」
かえでは車に乗り込むなり、誠を見つめてそうつぶやいた。
「でも、臓器移植の手術って専門スタッフが必要になるんでしょ?あの事務長の話だと、そちらもこの病院では出さないみたいじゃないですか……バノンは執刀医は雇っているとしてもそのスタッフまで雇ったなんて話は……」
その言葉にエンジンをかけながら振り向いたリンは誠をまるで分っていないという目で見つめた。
「誠様。いわゆる名の知れた外科医と言うものは自分の為にのみ働くスタッフを用意しているものなのですよ。少なくとも甲武や地球圏のように貧富の格差が大きく外科手術と言う物を行える人間が限られている国ではそれが当たり前のことです。私も産科医として甲武に専門の看護師を確保しています。当然その看護師も誠様の子を孕んでゆくゆくは日野家の支柱としてそれを支えていくのがかえで様のお望みです」
リンのそうはっきりと言い切る言葉を理解すると同時にかえでの求めるのは誠が子を産ませる女性が寮にいるかえでの家臣以外にもいるという事実を知り誠は目が点になった。
「そんなことは今はどうでもいいんだ……しかし、これもまたダミーかも知れない。リン、次は成畑赤十字病院に頼む……設備的にはあちらもここに匹敵するほど充実した施設を誇っている上に去年、先進医療センターを開業したという情報もある。そして、帰りは下志野国立療養所に寄ろう。あそこは施設的にはとても国立病院と呼べる物ではないからバノンが引き寄せられる可能性は少ないが、こちらの目をごまかすため……それ以上に隊に近いという立地は島田准尉を拉致してすぐに施術にかかれるという利点がある。念には念を入れるべきだろうね」
かえでは笑いながらひざ元に手を組んで笑顔を浮かべた。
「そうか……肝心の臓器の持主である島田先輩を病院まで連れてこないとそもそも手術なんてできないんですよね。でも、あの先輩が黙って怪しい宗教団体の人についていくような人だと思います?相当抵抗しますよ。それにあの人だって軍事訓練は受けてる兵隊なんですからそれなりのプロでも無いと島田先輩を捕まえて連れ去るなんて無理ですよ」
あの『喧嘩最強』を自認する島田を拉致すること。誠は自分も拉致された経験があるから言えるが、それは法術に目覚める前の話であって今の誠なら拳銃で脅されたくらいで簡単に拉致されない自信はあった。
しかも、今回のその標的は不死人である島田である。拳銃の一発や二発食らったところで立ち上がって反撃して来る島田相手に法術を使えない地球人しか教団に居ないバノンがどのような手段で島田を連れ去るのか。誠の気になるところはその一点に絞られていた。




