第148話 あくまで違法でない……それゆえに違法性が高い
そのまま薄暗い廊下を進むと正面にやけに立派な扉が見えた。その隣にはそれより格段に落ちる金属製のドアがあり、そこには表札が出ており『事務長室』と記されていた。
「この正面はおそらく病院長の私室……まあ、病院なのだから医師が主役なのは分かるが……これだけ格差があるというのもいかにも医療業界ならではと言うことだね。これは東和も甲武も変わらないようだ」
かえではそう言うとリンを見て静かにうなずいた。
リンは事務長室のドアを静かにノックした。
『どうぞ……』
低い、何かを諦めたような声が中から響いてきた。リンはそれを聞くとためらわずにドアを飛来した。
「失礼します」
リンはそう言うとドアを開き、まずはかえでを通し、続いて誠に中に入るように促した。
部屋のドアの貧相さに対して、事務長室の調度品はそれなりに立派なものに見えて、同じ役所の出先機関である『特殊な部隊』のあのカオスに近い嵯峨の隊長室とはまるで別世界のように誠には見えた。
「時間が無いんでね。午後からは会議が有るんだ。話は手短にお願いしたいものだな」
年は50代前半と言う割には老けて見える眼鏡の事務長は明らかに敵意をむき出しにして誠達に中に置かれたそれなりに立派な応接セットに腰かけるように手をかざした。
「いえ、座ってお話しするほどはお時間を取らせることはありません。確認したいのは……たぶんこれは先ほどの女性から伺っていると思うのですが臓器移植の設備……この病院には二つの専用の手術室がありますね?」
かえでは立ったまま事務長に優しく話しかけた。
「ええ、確かに」
事務長はいら立ちを隠さず吐き捨てるようにそう言った。
「その一つに予約が……しかも私費での移植手術を希望する人物の予約が入っているかと言うことを知りたいだけです。それが確認できれば私どもはすぐにでも引き上げますよ」
そんな甘いかえでの言葉に事務長は安心したかのように大きくため息をつくとかえで達を見回してようやく堅い笑みを浮かべた。
「よくご存じですね……明後日から四日間。私費での施設の予約が入っています。しかも、執刀医はそちらの方で用意していただけるとか。当方としては連勤続きの担当医に休みを与えることが出来るので大歓迎ですよ。これならば労働基準局の関心のある話では無いでしょ?当然、このようなことになんで警察が関心を持つのか理解できない」
事務長はかえでの問いに複雑な表情を浮かべてそう言った。
「そうです、あなた方には何の責任も法的な問題もない。ただ、施設の提供をした……その目的はその様子だとあなたは何一つ知らない……いや、知らない方がお互い好都合……あの男にとっても……」
かえではそう言うと静かに頭を下げた。
そのあまりに大げさな態度に呆然としている事務長の顔をかえでは一瞥すると誠とリンに目くばせした。
「確認したいのはそれだけですので。ご協力ありがとうございます」
リンもまた事務長に最敬礼をするとドアに向って歩き出したかえでに続いた。誠もまた小さく事務長に頭を下げると小走りに部屋のドアから出て行こうとするかえでの背中を追った。




