第145話 予算の大切さをしみじみと感じる誠
誠がタバコ臭い銀色の古いセダンの覆面パトカーの後部座席から降りると、目の前には広大な駐車場に所狭しと中型車やファミリーワゴンが並んでいる光景が広がっていた。
「病院にこれだけの人間が来ることが出来るとは……医療費負担がほとんど国がしてくれる東和ならではと言うことかもしれないね」
同じく後部座席から降りたかえでは医療保険など無く、貧しい平民が病気にかかれば死を待つしかない甲武国の生まれらしい換装を口にした。
「それにしてもこれだけの広さの駐車場を持っている病院でバノンが臓器移植を行えるだけの施設をそれなりの期間確保することなんてできるんですか?いくら世の中金次第と言ってもこの病院は国立病院でしょ?当然、厚生省の査察とかもある訳で……」
そこまで行ったところで運転席から降りたリンが誠に笑いかけてきた。
「バノンの教団とその保有する企業の財力から考えれば十分に可能です。というか、バノンの財力ではこれが精いっぱい。医師としての見解としては千要で最高レベルの移植手術を受けようと思えば千要大学医学部付属病院を利用するのが正解なんです。ですが、そこを利用しようとすればまさに誠様のご指摘通りに病院長、厚生省の役人、そして大学の学長等の多くの関係者への配慮が必要になります。バノンも無理をすれば彼等を黙らせるだけの金銭を用意できるかもしれませんが、バノンの様態はそれらの下準備を許すほどの時間を与えてくれる余裕はない……ですので今回はわざと候補から外しました」
そう言うとリンは先頭を切って立派なコンクリート造りの病院の本棟へと足を向けた。
近づくと、その病院がいわゆる『張子の虎』であることは誠にも見て取れた。
塗装はあちこち禿げ、車いすの配慮のための歩道には亀裂が放置されていた。
「ここも予算不足なんですね……医療機関だからそちらの方の手抜きが出来ないからそうなんでしょうけど、それ以外の施設は下手な公民館よりひどいじゃないですか」
誠は何のために作ったのか疑問に思うような段差の大きすぎる車いす用のスロープを超えて自動ドアの前に立った。
「なあに、世の中完璧なものなんて何もないのさ。だから、時にはバノンのような地球からの厄介な客がこの地球嫌いの東和にさえやってきて大きな顔が出来る。そうして世界は回っていくんだ」
そう言うとかえではそのままとても病院の待合室とは思えない大声での会話が響くロビーに入り込んだ。
「あそこが総合受付ですね……急ぎましょう」
リンがそう言うと手前にあるカウンターでただぼんやりと誰も来ない客を待っている中年の女性の立つ総合受付を目指した。




