第119話 繋ぎのエリート、残される社会不適合者集団
「まあ、動力系はいいんですけど……あの『武悪』の『法術増幅媒体』はどうするんですか?アレが一番コストがかかるしあの機体の一番迷惑なところですよ。僕も近くを通るたびにこの時期だというのに汗だくになるんですから。あんなもの夏に置いといたら熱中病で死人が出ますよ」
誠はのんびりと天井を見上げて寝転んでいる島田に向けてそう言った。
「そりゃあそうなんだけどよ。なにせ……いつもの事ながら予算がねえ。今月末で今年度は終わる。だからそれまではそこにかける金はうちには一銭もねえんだ」
島田は諦めきったようにそう言うと中腰で自分を見つめて来る誠に目を向けた。
「でもなあ、高梨部長が来年度の予算にそれを盛り込んでくれた。おかげで来月初めからオメエの05式のと同じ素材の『法術増幅媒体』を隣の工場に発注できる。もうすでに見積もりも取ってあるし、西も『武悪』のデータを送って隣の工場では『武悪』用のそれはもう完成してるんだ。あとは4月1日になったらそれを俺達があの暑苦しい『法術増幅媒体』と換装しておしまい。高梨部長も良い置き土産を残してくれたもんだよ」
そう言って島田は満足げにうなずいた。そして予算不足であえぐ『特殊な部隊』の救世主として管理部部長に就任して半年になる高梨が隊を出て行くらしいことを初めて知った。
「高梨部長、異動になるんですか?知りませんでした」
誠の言葉に島田だけでなくサラまでもが呆れたような視線を誠に向けてきた。
「オメエ、本当に社会人失格だな。本当に端末のメールチェックとかしてたのか?俺は部長代理だから以前から……というか高梨さんがうちに来た時からあの人がここにいるのは年度末一杯だって知ってたけど、正式の人事通達は先週メールで全隊員に回ってるはずだぞ?来週、高梨参事のお別れ会を月島屋でやるから。オメエが一番うちで予算を使ってるんだ。ちゃんと挨拶位しておけよ」
島田は苦笑いを浮かべるとそう言って誠から目をそらし天井を見上げた。
「あの人出ていくんだ……西園寺さんは軍の軍人じゃない官僚は気に食わないとか言って口も交わさないけど話してみるといい人だし、あのひねくれた菰田先輩の話も少しも嫌な顔をせずに聞いてる立派な人なのに……あの人がいなくなったらうちでまともな人なんかいなくなりますよ」
誠が心配しているのは『特殊な部隊』の唯一の社会人合格の人物である高梨が隊を去って行ったあと。残された社会不適合さのこの隊がどんな非常識を行うのか不安が募るばかりだった。




