第118話 技術力不足の国の脅威の機体
「まあ、いいや。それよりオメエは明日早いんじゃねえのか?早く寝ろや。俺としても俺を狙ってるあの変な宗教の車に追い回されるのはこりごりなんだわ。いい加減その教祖とやらをなんとか理由を付けてしょっ引いて身軽な気分にしてくれや」
島田はそう言って誠に笑いかけた。
「まだ8時半ですよ。これから何をしろって言うんですか?」
そう言う誠に島田は顔を背けてそのまま布団に寝転んだ。
「そんなの自分で考えろ。俺は今日休んだ分明日からのプランの練り直しで頭が一杯なの!あの隊長の『武悪』のアクチュエイターと重力制御装置を使用した推進系周りの05式の奴のものの『武悪』に装着するための各部の調整が先週やっと終わったところだったんだ。鏡からその換装作業に入る予定だったが、西の野郎じゃこんなことの指揮は任せらんねえ。なんと言っても『武悪』の甲武製の『法術増幅媒体』は常に劣化を続けて熱を持つから作業時に耐熱服を着た上で慎重の上にも慎重を課してやらねえとマジでうちの兵隊に死人が出る。そん時の責任を西に任せるのは酷だ。だから明日からは数日隊に泊まり込みなんだ」
島田は天井を見上げながら誠に向けてそう言った。
嵯峨の専用機で誠の05式乙型と同じ法術師対応シュツルム・パンツァー『武悪』。
法術に関して遅れた技術しか持たない嵯峨の母国である甲武国で開発されたこの機体の肝である『法術増幅システム』には大きな問題があった。
誠や嵯峨の持つ法術の力を増幅し、武器として使用する『法術増幅システム』の法術師の力を増幅する『法術増幅媒体』の開発技術は甲武国独自のものだったがその材質のもたらす効果は誰が見ても問題だらけだった。
効果は東和共和国の菱川重工が開発している『法術増幅媒体』に匹敵すると言いうことは嵯峨による『武悪』の機動実験により確認されていたが、その材質は安定していてほぼメンテナンスを必要としない05式乙型のそれとは違い極めて不安定な材料が使用されていた。
大気に接するとその物質はその酸素と結合して熱を発し劣化を始める。その熱の音頭は100度近くにもなり、冬に『武悪』が搬入されて以降、去年は石油ストーブを何十台並べても震え上がるような寒さだったというハンガーは逆にサウナのような暑さに満たされた空間になっていた。
そして、嵯峨の法術により位相転移エンジンから排出される熱を亜空間に放出することで理論上は無限に位相転移エンジンの出力を上げることが出来るということが、低出力の熱核エンジンしか開発した経験のない甲武の技術者たちはそのハイパワーに耐える腕部や脚部を動かすアクチュエイターや重力制御推進システムを低出力エンジン用のものを使用するということを行った。
そのため、『武悪』はただ動かすだけで、腕部脚部も移動時の出力調整もパイロットがスロットルを少し開けただけで自壊するという最悪の機体として完成した。
なんとか高出力に耐えられる05式のアクチュエイターと重力制御装置に換装することで05式を上回る性能は持つことは保証されているがそれでもまだ『武悪』の本領である位相転移エンジンの最大出力を活かすことが出来ないのは確実だと誠は思っていた。
「まったくあの機体……手のかかる機体だぜ。なんだって技術の足りない甲武があんなもんを作ったのか不思議なくらいだ」
その実戦投入可能なまでの改修作業を任されている島田はうんざりした表情でそう愚痴を言った。




