第112話 法術捜査の感想を語るかえで
定時が終わり、着替えを済ませた誠は笑顔のかえでに迎えられるといつものようにリンの運転する彼女の高級車に乗り込んだ。
「今日は実に充実していた。これが法術関係の捜査と言うものなのだね……」
そう言って笑顔を浮かべるかえでは純粋に仕事を成し遂げた充実感に満ちた表情をしていた。いつもなら奇妙な性癖をさらけ出して誠を困惑させるかえでの美しい笑顔に誠は笑みで答えた。
「確かに今回は誠君が対峙したような強力な法術師が立ちはだかるわけではないかもしれない……ただ、そこには地球人の持つ妄想の一つ『宗教』と言う壁が立ちはだかる。地球人がこの遼州圏に持ち込んだ害悪の一つが『宗教』だ。まあ、遼州人はその辺うまく地球人の妄想との付き合い方を心得ている人間が多いから冠婚葬祭以外は特に考えずに生きているが、こうしてその教祖を調査対象にしてみるとその恐ろしさと言う物を実感する……甲武の政府や軍部がやたら宗教を弾圧しようとする理由も分からなくはない……そんな気がしてくるね」
かえではそう言って時々見せる本当にその誠から見ても優秀な頭脳をフル回転させている時の真剣な表情で運転するリンの背中を見つめていた。
「本来『宗教』は人を救う道具だったはずだ。しかし、地球人は『神』と言う形を持たない権威を発明しそれに縋って生きるようになり、そしてその心を宗教家や権力者は利用した。この遼州系にまで宗教対立と言う戦争の種をまき散らし、地球圏では教義のちょっとした解釈の違いで核ミサイルすら平気で飛ばす……もはや、『宗教』は人を救うことは無い。ただ人を殺すきっかけ、人を憎むきっかけに過ぎない……こんなことを言えるのは僕が宗教と無縁に1億年の時を生きてきた遼州人の血を引いているからかもしれなけどね」
そう言うとかえでは視線を誠に向け、優しい笑顔を浮かべた。そこにいつもの性的なものを感じなかった誠は正直ドキリとしていた。
「でもうちは真言宗智山派ですよ。ちゃんと仏壇もありますし、法事は……そう言えばしたことが無いな……友達の家は大概何回忌とか言って法事をしたのに……そもそもあの仏壇にある位牌が誰の位牌かなんて母さんは教えてくれなかったんです」
そんなことを言う誠にかえでは笑ってみせる。
「遼州人にとっては『宗教』なんてそんなものさ。僕らは地球人があれほどありがたがるのだからさぞすごいものなのだろうと真似はしてみた。しかし、まったく理解できない。だからそんなものにはエネルギーは使わない。そんなものの為に人生を乱されるのはうんざりだ。だからこの東和では『宗教』は冠婚葬祭とたまにある祭り……これも地球人の真似でこちらは楽しいからやっているけどね……それくらいしか意味を感じないんだ」
かえではそう言って誠との会話を心底楽しんでいるというようなかえでには珍しい裏表のない笑みを浮かべた。




