第110話 経済の外を生きる女性の見方
「ここに住んでる人達って本当に幸せなんっすかね?」
けばけばしい外装のソープランドのネオンサインを浴びながらラーナは語るでもなくそんなことを口にしていた。
「ここの女性達は様々ですわ。私はこの街の弁護士をしていました……父の後を引き継いで相談に来た女性達もいます……それぞれに悩みを抱えているけどその悩みも様々……それは別に他の街とは違いがありませんわ。ただ、その落差がこの街では激しすぎるだけ。私が相談を受けていて感じたこと、そして今、法術特捜の主席捜査官としてこの街の外の法術犯罪者の事情聴取などを行って思ったことはそれくらいですわ」
茜は昔からこの街の猥雑さは父の嵯峨には担い潔癖症故にあまり受け入れらえなかったし、そのルッキズムと年齢至上主義がもたらす残酷なヒエラルヒーには嫌悪すら覚えていた。
「いえ、この東和……豊川の街でも私は時々感じるんっす。本当にこの国は豊かですけど何かを忘れてきた……私の国遼帝国……戦争ばかりで貧しい国で何の変化もない国ですけどそこにはありふれている大切なものがここには抜け落ちているような感じがするんっすよ」
そう語るラーナは純粋な少女そのもののように見えて彼女が着ているのが東都警察と同じ司法局の制服でなければこの街にはあまりに似合わない遺物のようにも見えた。
「抜け落ちているもの?ラーナはそれをどういうのかしら?」
茜は甲武と言う大正時代の日本をひたすら模倣する元地球人の身分制度の国で生まれ育ち、このそのようなしがらみとは無縁な東和で青春時代を送ってきた。
確かにこの街の闇は父の仕事を手伝う中で嫌でも見えてきた。
でもそのようなことはこの街の外では公言されないだけで皆が当たり前に抱えていること。
ラーナがそこで生きる人々すべてがあのラーナの生まれた貧しい遼帝国の人々が持っているものを持ち合わせていないという言葉に興味を引かれた。
「この街ではお金で何でもできるっす。手に入れる方法もいくらでもあるかも知れないっすよね。それは豊川の街も同じっすね。でも……そもそもお金って何です?私も央都の高学になんとか入れてもらって初めてお金の実物を見たんすけど……こういったらなんっすけどただの紙切れじゃないっすか。それが何でもできる魔法の紙だと聞かされて……最初は信じられなかったっすけど……今思えばあれは魔法の紙なんかじゃないっす。悪魔の紙です」
どこか達観したような調子でラーナはそう言った。その言葉に何も言えずに茜は聞き続けるしかなかった。




