第109話 虐げられる不死人を見た不死人だけが住む村で生まれた警察官
「すみませーん……警察なんですけど……」
吉原の安アパートの二階の動くかどうかわからないインターホンを押しながらラーナは相手に警戒されない程度の声でそう言った。
「ここも留守みたいですわね……この街で働く女性達は何時ねているのかしら?私も東和に来た時から長いことこの近くでお父様と暮らしていましたがそれだけは今でも謎ですわ……お父様なら知っているんでしょうけど」
司法局の制服に身を包んだ茜はそう言うとそのままアパートの錆びだらけの階段に向った。
「まあ、たぶんなじみの客で独身の人の家にでも転がり込んでいるんじゃないっすか?こういう仕事をしている人で稼ぎの無い人はそれはそれはきつい生活をしているって司法局に配属になる前に受けた東都警察の研修でも言われてたっすから」
階段を降りると派手なネオンが光っている。昼間から営業している店もあるので当然と言えば当然だが、客の方はと言うとほとんど道には見かけることは無い。
時々すれ違うのは下着かと見まごう薄いレースの上着から下着が見えるようなきわどい衣装の化粧の厚い若い女ばかり。彼女達の権利を守るために働く弁護士であった時代を思い出した茜は結局いくら彼女が動いても救われるこの街の女性が一握りにしか過ぎないことを思い出して唇をかみしめた。
「ラーナ、これでこの街の不死人の女性が生活するレベルの家賃の安いアパートの巡回は終わったのかしら?」
茜は手にした端末をチェックしていたラーナにそう声をかけた。
「そうっすね。しかし、この街は稼げる人と稼げない人の格差がひどいですね……しかも稼げる人は全員死ぬ人間。稼げない人のほとんどが不死人。こりゃあ不死人差別っすよ。私の父も母も不死人ですから少し腹が立つっす」
少しむくれたようにラーナは茜を見上げた。
「そう言えばラーナの親御さんも不死人でしたわよね……」
茜は遼帝国出身の警察官であるラーナの事を見てそう言った。
「そうっすよ。うちは山奥なんで遼南内戦なんてまるで関係ない平和な村でしたから。村の全員が不死人。私はなんでも地球人がこの星に来て初めての子供だそうっす」
地球人がこの星に来てから500年になる。しかし、ラーナの村はそれまでの焼き畑農業から原始的な蕎麦農家に変わった以外なにひとつ変わっていないという。あえて変わったことはと言えば、200年前に遼帝国が開国して学校制度が出来たこと位のもので、ラーナも文字の読み書きが出来る村の長老と呼ばれるどう見てもその呼び名にはふさわしくない若い青年から町から余った蕎麦と交換した教科書を使った勉強を教えてもらい、そのまま高学を出て遼帝国の警察学校に入ったという。
茜は15歳で高学に入るまで不死人以外に会ったことが無いと語るラーナにはこの意図的に社会の表舞台から置き去りにされている不死人達が暮らす街がどう見えているのが心配になってきていた。




