第108話 永遠に変わらない永遠の底辺の街
アメリアの言葉を聞くとかなめはそのままテーブルに十円玉を三枚と百円玉一枚を置いてカウンターに背を向けた。
「まあ、そんなもんだろうな。なんせ法術関連の技術の中でも最高軍事機密である不死人になる方法を正確に理解できるほどの地位を手に入れることのできる金を持ってるご令嬢のお使いだからな。金ならいくらでもあるんだろ」
そう言ってかなめはアメリアの顔を見てニヤリと笑った。
「ああ、さっきかなめちゃんが食べてたとんかつだけど、あれは犬の肉よ。知ってた?」
さも面白そうに言うアメリアの顔を見てかなめは呆れたような顔をし、カウラはそのまま気分が悪くなったというように口を抑えた。
「そりゃあそんなもんだろ。今時30円で3枚とんかつを出す店なんか三谷以外にあるもんか。卸の業者に頼んだってそんな値段じゃ生の豚肉なんて買えねえぞ」
知っていたというようにかなめは勝手知ったる路地を歩く。
まだ仕事を終えた労働者が帰ってきていないので路地の片隅では数人の若い女がタバコを吸いながら暗い顔をして世間話をしているのが見える。
「連中……このあたりの立ちんぼも全員不死人だそうだ……裏の路地でタバコをこちらも200年も前から売っている若い女の店員からそう聞いた……この街の住人のほとんどが不死人だ。死ぬことも年を取ることもできずにこの街に集まり、そして永遠にこの街に根付いているかのように見えていつの間にか消える。それがこの街の400年間続く景色なんだそうだ」
ところどころにある日常雑貨を扱う商品の店員に聞き込みをしていたカウラがそうつぶやいた。
「永遠に変わらねえ町か……まるでこの国……東和そのものじゃねえか。この街はこの東和の矛盾をすべて背負い込んでその裏方でひっそりと永遠の時を生きる。この東和が永遠の20世紀末を生きる国であることを支えるためにな」
そう言うとかなめはタバコを取り出して火をつけた。
タバコが苦手なカウラは嫌な顔をした後路上を見回した。
道には無数の吸い殻が転がっている。そして視界の端ではその吸いさしに火をつけて吸っている路上生活者の姿が見えた。
「酷い町ね……ただ生まれが東和近代化以前だったということでこんな狭い場所で安い給料と浮き草暮らしを強いられている……そんなところにとてつもない良い話を持ってやってきた片言の日本語を話す外人。彼等にはどんな風に見えるのかしら?」
アメリアは路地を歩きつつ悠然とタバコを吸うとまだかなり残っているというのに路上生活者の前でタバコを投げ捨てるかなめに目をやった。
「さあて、どんなだろうな。それより、アメリアもカウラもどう見ても外人じゃねえか。それ以前に髪の色が外人よりもっとイカレテルぞオメエ等といると目立つな……本当にこんなことなら茜やラーナ達の調べてる髪を染めてる女が珍しくない吉原と交換してくれりゃあよかったのに」
そう愚痴りながらかなめはタバコに火をつけた。先ほどかなめが捨てたコイーバクラブの長い吸い殻にはもうすでに三人の路上生活者が群がっていた。




