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第101話 『小弾正』渡辺リンの野望

 あまりに野心的なリンの発言に誠は正直引いていた。しかし、リンはまだ自分の野心を語り続けた。


「これは誠様が私をお選びになられ、渡辺家別家当主となられた際の話ですが、私はあの馬鹿な右大臣、田安麗子を篭絡するつもりです」


 はっきりとそう言うリンに誠は唖然としていた。


「あの女は馬鹿です。そして自他とも認める男嫌いです。あまりにも馬鹿すぎてあの女が言い寄る女はみな逃げていきます。ですので女性同士で子をなすことが出来る現在の生殖技術でもあの女の子供は産まれません」


 誠も先日『監査』と言う名目で来た麗子の馬鹿さ加減は良く分かっていたのでそのあたりは納得がいった。


「でも、それなら養子を迎えるんじゃないですか?この前西園寺さんに聞きましたが田安家が絶えた場合には紀伊、尾張、水戸、一橋、清水から養子を迎えると決まっているとか言う話じゃないですか?」


 かなめの甲武家柄講座を時々受けていた誠はそう反論した。


「甘いですね。まず、紀伊と尾張は第二次極東限定核戦争で断絶しているので今続いているのはそう名乗っているだけの偽物の家で徳川の血は引いていませんからそんな人物をあの血にこだわるあの馬鹿が養子に迎えることはあり得ません。そして、水戸と一橋、そして清水ですがこちらは全員子供は男子です。男を見ると蕁麻疹が起きると言って一切近付かないあの馬鹿が男を自分の跡継ぎにするわけがありません」


 自信ありげにリンはそう言い切った。


「でも、リンさんはどう見ても甲武の人間には見えませんよ……どうやって乗っ取るんです?」


 興味半分に誠はそう聞いてみた。


「あの馬鹿の行動論理は『好きか嫌いか』がすべてです。だから自分が好きなかなめ様にあれほど執着してかなめ様の子供を自分が産むと駄々をこねているのです。しかし、かなめ様はあの馬鹿にはうんざりしています。そこで私がかなめ様の代わりにあの馬鹿のお相手を務めます」


 リンははっきりと誠に不倫宣言をした。


「かなめ様は何度かお相手をしましたが乱暴に過ぎて相手を満足させるツボを心得ておりません。あのお方はどこまで行っても自分勝手な『女王様』なんです。ですので、かえで様を扱うように最高の快楽をあの馬鹿に仕込めばすぐにあの馬鹿は私を気に入る事でしょう。そしてあの馬鹿に私の子を産ませます……ああ、あの馬鹿は誠様には珍しく好意を持っているようなので誠様の子を産ませるというのもアリかもしれませんね」


 あっさりとそう言うリンに誠はあきれ果てていた。


「『徳川譜代』のお歴々もあの馬鹿の馬鹿さ加減にはうんざりしています。おそらく子供が生まれた途端にあの馬鹿は隠居させられるでしょう。そうなれば右大臣家は私と誠様のもの……渡辺家も今でこそ日野家家宰をしておりますが本来は『徳川譜代』の家柄。ですので『徳川譜代』の面々も私には一切逆らえなくなり、右大臣の地位も不動のものとなります。かえで様は四大公家末席。その官位はよほどのことが無い限り今隊長が務めている内大臣以上にはなれません。こちらは右大臣を自由に扱える身分……そしてかえで様のすべてを家宰として知っている私は右大臣と内大臣を自由自在に扱える存在となります……なかなか面白い野望だとは思いませんか?」


 底知れないリンの腹黒さに誠は恐怖すら覚えていた。

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