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41.三人でのお買い物

 すっかり冬になったある日のこと。寝る前になると、何となくこたつに集まるのが我が家の習慣となっていた。



「うーん、今日の晩ご飯は特においしかったなあ。ニア君の料理の腕はどんどん上達していくねえ…おかげで少し飲み過ぎてしまったかもしれないよ」



「えへへ、皆さんのお口に合ったようで良かったです。ちょうどレシピと一緒に食材を分けてもらえたんですよ」



 今日の晩飯は確かにいつもよりも豪華であった。ニンニクとハーブを効かせ、俺の好物のチーズもたっぷりと乗った鶏肉はまさに絶品。脂の乗った肉は口の中でほろほろと解け、ワインと共に得も言われぬハーモニーを奏でる。それにつられてついついロマと杯を重ねてしまった。また買い足しておかないといけない。



 メインの鶏肉の他にも見慣れぬものとしては白いサラダが出されていて、食べ慣れていないせいで最初は大いに戸惑った。ロマによれば滋養豊かな芋の一種らしいが、ぬるぬるとしていて正直気味が悪い。



 覚悟を決めて噛んでみると食感は意外にもシャクシャクとしていて面白く、味も悪くない。加熱した方はホクホクとしたものであり、素直にうまかった。調理次第で変わるものである。




「はあ、やっぱりこたつは気持ちいいです」



「ううん…ここに入ると何もしたくなくなるのが問題かなあ…」



 俺もこたつは大好きだ。二人と近くにいられるし、微妙に距離があるため相棒も誤作動を起こし難く、気づかれる恐れもない。安全安心である。それに加えて運転席でこたつを起動しているという実績が、俺の自己肯定感を押し上げてくれるのである。



「そういえばお二人とも、明日って何か予定がありますか?」



「んー、ボクは研究くらいだし、特に根を詰めているわけでもないからねえ。何かあるなら付き合おう」



 俺はない。サーシャが来る日は素振りかサムと薪割りだ。俺も家で何かするべきだろうか…まあ仮に何か別の予定があったとしても、余程のことが無ければこちらを優先するであろう。



「でしたら三人でお買い物に行きませんか?こないだ話していたドライフルーツを買いに行きたいです。薪代は月にまとめてのことでしたので、今週は丸々使えます!」



「今の季節だと梨、林檎、葡萄、檸檬とかだろうか。杏子は…どうだろう、数か月は持つと思うけど…余っていたら買い占めてしまおうか」



「うーん。そんなに買ってしまうとお金が足りなくなってしまいそうです…悪くなってしまうかもしれませんし」



 前に干し杏子を買った時は値札を気にも留めていなかった。銀貨一枚当たりどれくらい買えるものなのだろうか。嗜好品であるため、金のなかった時分には買ったことはなかったのでよくわからない。好んで買う酒やチーズ、携行食であればわかるのだが。



「そこまで在庫を抱えているとは思えないけど、食べる分だけ買うなら問題ないだろう。痛んでさえいなければボクの魔術で保存しておけばいいよ」



「ええっ、そんなこともできるのですか?」



 保存の魔術か。原理は知らんが使えると便利だろう。しかし一見有用そうであるが、食品に対しては恩恵にあずかったことはなかった。その状態を保つには対象を変形させないことが重要らしく、探索中に活かせなかったからだ。



 処分品などを大量に購入して保存しておくなどの節約術もあるにはあるが、マジックユーザーに依頼する費用を考えると微妙だ。ロマのように自前でできるなら話は別だが。



「ロマさん、ちょっといいですか。お耳を貸してください」



「ふふ、くすぐったいよ。どうしたのだい」



 こたつの向かい側で二人が仲良くしている。混ぜてもらいたいが、運転席の俺はここを離れられない。その楽しげな様子を黙って見つめるしかないのである…



「ロマさん、聞いてください。私は今回のお出かけでお二人と一緒に行きたいところがあるんです」


「何だろう、残金を気にしていたことに関係するのかな」



「はい。実は以前、ご主人様と出かけた時に寄れなかったところがあって、そこの料金が分からないので不安なんです」


「ふぅむ、仮に超過したとしても、その分は立て替えて次の貯金分で補うようにすればいい。ニア君のお金も、彼や僕に頼ることもできるのにそれをしないという事は、三人で出したお金で行きたいのだろう」




「えへへ、ロマさんは何でもお見通しですね」


「何でもは無理だよ、分からないことだらけさ」



§



 朝の鐘の音だ。目を開けるとリビングの風景、またこたつで寝てしまった…ちょっと癖になってきているかもしれない。



 もぞもぞと体の向きを変えて、昨夜の夢を思い出す。俺にしては珍しく我慢が出来た。勝因としては夢の中の二人が、服装を除けばいつも通りに振舞っていたお陰であろう。俺は夢の中で耐えに耐え、見事己に克ったのだ。



 空しい勝利であった。



 夢と気づいてさえいれば楽しんでしまった方が良かっただろうか。一度も夢を夢と気づいたことが無い俺に誰かコツを教えて欲しい。



 散々我慢したせいか体がむらむらする。今すぐにでも庭でめちゃくちゃに剣を振り回したいような気分だ。相棒も俺も振り回せと柄をこちらに差し出す。おや、お前が落ち着かないとこたつから出られないからね。



「おはようございます、ご主人様。ちゃんとベッドで寝ないとダメですよ」



 格好悪いところを見られた上に注意されてしまった、こたつの中から挨拶を返す。ちょっと待っていてくれ…落ち着いたら顔を洗ってすぐ暖炉に火を入れるから…



§



「じゃあ出かけましょう!」

「うん、忘れ物はないかな」



「お気をつけて行ってらっしゃいませ、お帰りの予定はお決まりですか?」



「はい、サーシャさん行ってきます。今日は帰りが遅くなりますので、食事の準備は大丈夫です」

「あ、ボクの部屋の洗い物をお願いしても良いかな。出し忘れてしまったよ」



「かしこまりました。それでは皆様、良い一日を」



 サーシャに後を任せて家を出る。



 ドライフルーツを買うだけで昼食に間に合わないほどの時間はかからないが、ニアが持つバスケットにはお弁当が入っている。昼はどこか景色の良いところで昼食にする予定なのだろうか。俺が思い描く限りでは、かなり理想的な家族像である。



 前を行く二人をそんなことを考えながら歩いていたら、あっという間に食料品店についてしまった。ドライフルーツを探す二人とは別に俺はワインを取りに行くとしよう。



「む。しょぶんひん、おはやめに。えっと…これならば銀貨一枚で全部変えてしまいますね」



「そうそう、勉強の成果が出ているねえ。後どのくらい持つかは知らないが、保存をかけておけば問題ないだろう」



「えへへ、ありがとうございます。やっぱり字が読めて計算ができると便利ですね。でも半分にすれば半銀貨…銀貨五枚をまるまる残しておいた方がいいかなぁ」



「安く買えるのだし、飽きたりしないのであれば買っておいた方がお得じゃないかな。売る方も保存魔術を考慮した値付けはしないだろう」



「なるほど、じっくり味わって食べればこの冬はずっと杏子を楽しめるかもですね」



「ボクは別のも食べたいなあ」



「今日は少しでも温存しましょう。次に来た時にまた別のものを買うという事でどうでしょうか」



 二人が干し杏子を前に何やら話し込んでいるところに、お気に入りのワインをもって合流する。これはニアと初めて会った日に飲んだものであり、先日ロマと飲み干したものと同一のものである。



「…確かにおいしかったけれども、それがいくらするのかわかっているのかい?ああ、すまない。話していなかったね。実はこの後も予定があってね、その費用がいまいち不明なので話していたところなのさ」



 これはこの店で買える一番いい奴なので、銀貨二枚くらいであったはずだ。しかし必需品というわけでもないし、後の予定に差し支えるのであれば戻してこよう。そもそも贅沢貯金での買い物とは別に買うべきであった。



「いえ、ご主人様。今回はこちらから購入しましょう。今日という日にふさわしいと思います」



「今日のお出かけで飲むつもりならグラスが無いね。しかしいきなり所持金が半分を割ってしまうとは。これ、やはり面白い試みだねえ」



 くそ、俺にもっと稼ぎがあれば…戦乙女での賃上げ要求をするべきだろうか。ニアたちの基本給を上げる闘いをするのだ、成功すれば連動して俺も給料が上がるという寸法である。ニアはそれにチップ分が乗るため俺が負け続けるのには変わりがないが、それは別にいい。皆のお楽しみに使う金額が増えた方が、生活はより充実したものになるだろう。



 その後も三人でああでもないこうでもないと相談しながら、結局はドライフルーツとワインのみを購入し、店を後にしたのであった。



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