40.(番外)とある一般探索者の楽しみ
完全に主人公組とは異なる視点になります
この街にはダンジョンがあり、そこから産出される宝によって潤っている。
宝を目当てに探索者が集まり、それを目当てにした商人が集まる。そうすれば自然と物と人も集まり、活気に溢れた都市になるって寸法だ。冒険者であちこちを回っていた腕自慢の俺も、一発当ててやろうとこの街にやってきたってわけさ。
土地が豊かになれば人を楽しませる娯楽の幅も広がる。食い物もうまいし、女たちは美しく着飾って俺たちの目を楽しませてくれる。金さえあればここの生活はまさに天国だ。
俺も金に余裕ができて、例に漏れず娼館に通うようになった。この街の女は素晴らしい。人間はもちろん、獣人にハーフリング、稀にエルフまでとそのレパートリーは富み、またその質も高い。冒険者として各地の娼婦を抱いてきたからこそ俺にはわかるのだ、一線を画しているといっていい。
殆どの奴らは良い女たちに跨るだけで満足することだろう。ああ、俺にもあったよ、そんな時期が。しかし、それを越えた先にいる、上級者の俺だからこそ理解できるお楽しみってヤツがある。
最近、探索者界隈で流行の酒場「戦乙女」を知っているだろうか。
ここを贔屓にしていたパーティが途方もない目標金額を達成したと耳にして、ゲンを担ぐ意味も兼ねて足を運んだのだが、ここがまたいい店だった。
確かに周辺の酒場に比べて割高ではあったが、その分提供される酒も料理も抜群で、オマケに店員はいい女ぞろいだ。特に黒髪の看板娘は魅力的で、歩くたびに揺れる胸はまさにド迫力。こっちのチップも弾むってもんよ。
アレでやる気をチャージして、その足で娼館に向かい、黒髪巨乳の娘を指名するといい感じなのでおすすめだぞ。
話が逸れたな。最近常連になりつつある俺だけが知っている…と思いたいが、最近この酒場には妖精が働きだしたのだ。
夜にその姿を見たことはない、かといって昼に行けば必ず会えるわけでもない。その遭遇率を上げるためには一工夫必要で、当たり前ではあるが存在も含めて赤の他人にその方法をペラペラ話したことはない。
妖精と遭遇したケースを組み合わせて俺が編み出した策は、週末の昼の一番混雑する時間帯を避けて、飲み物のオーダーがやや多く入った時にベリーパイを注文するというものだ。
そうしてうまく召喚が決まった時は、店の奥から妖精が現れ、パイを運んできてくれるのだ。
その妖精は可憐で、まさに幻想的。去り際に残す香りはこれまで嗅いだことのないような花の香りがして、妖精が花の蜜を吸って生きているという伝説を裏付けている。
そしてこれは一番他の奴に知られたくないことなのだが、チップを渡すときに銀貨を払うと良いことがあるという事だ。
チップに銀貨なんて、と思うだろう。そりゃそうだ、払い過ぎである。料理の値段よりも遥かに高い上、行くところに行けば一回女を抱けるほどの金額だからな。
胸でも揉めるのかと考えた奴は世の中のことが全く分かっていないと言わざるを得ない。そもそも妖精とは子供のころ聞くようなおとぎ話の中の存在で、そんな簡単に手を出していいような存在ではない。
目の前に降臨してくれただけで僥倖であり、天に感謝を捧げるべきなんだ。
そして、チップを弾んだ結果、何が得られるかというと妖精のおてての感触だ。銀貨を手渡すと、こんなに受け取れませんと返してくるのだ。奥ゆかしくて最高だろう?その反応だけでも銀貨を切った価値があるが、ここからが本番だ。こちらとて出したものを引っ込めるわけがない。その結果、数回ではあるが銀貨の押し付け合いが発生する。
この時の手の感触ときたら…経験はないが、ここの看板娘の胸を揉んでいるに等しいのではないかという程の幸福感、いや違うな。そういった邪な感情では言い表せない、きっとソレでしか得られない栄養があるのだ。
そして一度その栄養を得てしまうと体というのは不思議なもので、またその成分を欲するのだ。まったくもって罪深い…
§
ある日、俺ではない奴のところに妖精がパイを届けに現れた。
くそ、ツイていない。しかし妖精との遭遇率を上げていくために貴重なデータだ。なるほど、週末以外のこの曜日にもいるのだなと記憶する。
注文したガキがチップも払わずに妖精からパイを受け取る。背伸びしてこの店に来たというところだろう。しかし馬鹿な奴だ、千載一遇のチャンスを自ら棒に振るとは…やれやれ、そんな事では大成できまい。
横目でその様子を伺っていると、ガキの手が去り行く妖精の尻に伸びる。まずい、俺では届かない!クソガキが!指一本でも触れたら生きて帰さんと席を立つ。
その時だ、ガキの近くに座っていたと思わしき黒いケープを纏った男ががっちりとガキの手を掴む。妖精は特に気づいた様子もなく店の奥に戻っていった。
そうだ、これでいい。彼女は穢れとは無縁でいるべきで、この先の光景を見る必要は全くない。
ガキの手を捉えた男に目礼をする、間違いなく一流の探索者だ。先ほどの動きも一切の無駄が無く洗練されていた。フードから覗かせたその顔は恐ろしいほど整っている。
相手もガキを捉えたままこちらに向かって目礼を返してきた。男のテーブルの上には俺と同じく食べかけのベリーパイ。言葉を交わさずとも確信する、間違いなく妖精を愛でる同志である。
俺はガキの口を塞ぎ、二人掛かりで店の外に連行する。店を出る前に見知らぬ他の客が店員に事情を説明しているのが目に入った。助かるぜ、後で一杯奢ってやろう。
外に出ると何故か俺たちの後ろには、怒りに燃えた瞳を携えた連中が増えていた。中には協会で見かけたこともある現役の女探索者の姿もある。
こいつらも同志だったのか…妖精の良さを知っているのが俺だけではなかったという口惜しさはあるにはあったが、多くの同志を得た喜びの方がはるかに勝った。
店から少し離れたところでガキにキッチリと教育を施し、店に来るなとは言わんが、次は殺すと釘をさす。
その後店に戻り、同志と共に妖精の話を肴に酌み交わした酒は格別の味であった。
「妖精いいよね」
「いい」
「週初、夜はノーチャンス、週末昼は激熱」
「隔日の可能性高し」
「情報感謝」
「帰りを張り込むのは無粋よね。でも目撃情報が無いのは不可解だわ」
「二階に住んでいる可能性が濃厚」
「納得」
「奥の個室で妖精と仲良さげに談笑する美人女性がいるって知ってるか」
「羨ましい」
「尊い」
夜は更けていった。




