第一章 その参
そういえば説明し忘れていましたが、このお話しはsunsetさんの「人類最巧の科学兵器」と同じ世界観、時間軸で書いているんですよ
二人で世界観を共有してるので、微妙に絡みがあったりなかったり......
もしよければ、「人類最巧の科学兵器」の方も読んでみて下さい
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「しかし、まさか入学式に攻めてくるとは思わなかったのう」
「確かに……」
本当に迷惑な話だよ。入学式の準備だって俺一人でやったのに。
俺と白刃は、家に帰る道を歩いていた。夕方なら近辺の中学高校に通う学生たちが歩いているのだが、現時刻は早朝の二時。いや、早朝じゃなくてまだ深夜か?どちらにせよ、俺ら以外に人影は見えない。
「あー、くそ、給料割増しにしてもらわないと割に合わねえよ」
「そうじゃ、今度わしに酒を買ってくれぬか?いい加減我慢するのも疲れるんじゃ」
「お前は酒癖が悪いから駄目だ」
「ツマキは毎晩飲んでおるくせに……」
「俺の場合は、あれが薬みたいなものなんだって」
嘘は言ってない。というか、やましい意味も全く無い言葉だ。
「俺の〝力〟を制御するために必要なんだって言ってるだろ?ちゃんと許可も得てるし」
2108年現在、本当なら未成年(18歳未満。かつては二十歳未満だったが、色々あって下がった)の飲酒は法律的に禁止されているが、俺の場合はちゃんと法律上の許可を取ってあるし、それ以外の用途では飲酒しないから特に問題は無いだろう。
「まあいいか。御神酒ってことで………ん?どうしたシラハ?」
ついさっきまで話していた白羽が突然黙り込み、ある方向をじっと見つめたまま固まった。
「…………血」
「血?」
「血の臭いがする」
「……どこだ?」
血の臭いがするってことは、誰か……もしかしたら小動物かもしれないが、出血している生物がいるってことだ。早くみつけてやらないと。
「ここから北に三○○メートル程移動した場所じゃ。ちょうど、昔ツマキが遊んでいたというゴミ集積所じゃな」
「………あそこか」
俺がまだ小さい頃、いつも遊んでいた場所がある。そこは、今時珍しいゴミ集積所だ。まあ、ゴミ集積所と言っても家電ゴミとかよく分んない鉄くずとかが集められているだけで、別にそこまで不潔な場所というわけではない。
しかし、かつてそこを管理していた業者が潰れたことでほったらかしになってしまい、今は不法投棄場所みたいになっている。不思議なことに家庭ごみを捨てる人はいないみたいだが。
小さい頃の俺は一人で、そこを探検気分で走り回ってたっけな。さすがに今は前を通り過ぎるだけだけど。
「うっ……?」
俺が集積所の入り口に辿り着いたその瞬間、鼻が曲がってしまいそうな臭いが俺の鼻を突いた。なんて表現したらいいんだろうな……ただ分かるのは、何かが死んでいる。ということだ。
「なんだこの臭い……」
「ツマキ!」
いつの間にか少女の姿になり、地面に降りていた白刃が地面の一点を指差した。そこにあったのは……
「血痕じゃ」
何かが、出血したまま移動していたのだろう。まるで筋のように血痕が点々と残っていた。
「シラハ、何の血か分かるか?」
「ちょっと待っておれ」
そう言うと、白刃は血痕に顔を近づけ臭いを嗅いだ。さすが蛇というか……犬ではないんだけど。
「ほとんどの確立で人じゃな」
「……となると大分まずいな……この感じだと相当出血してるぞ。しかも、この血痕の状態だと、二、三時間前の物だ。それに、この臭い……もしかしたら手遅れかもしれないな」
まあ、人が死んでいるのならそれを放っておくわけにもいかないけどな……。
臭いを我慢し、ゴミ集積所の奥に進む。血痕を辿って歩くにつれ、強い、鉄のような臭いが濃くなってきた。そして、ゴミの山の角を曲がったそのときだった。
「!!」
「これ……は……っ!!」
白刃が口元を抑え、半歩後ずさった。それだけ、悲惨な光景だった。
簡単に言ってしまえば、そこは血の海だった。広大な元ゴミ集積所の一角だけが赤黒く染まり、其処ら辺の粗大ゴミや鉄くずには、元がなんだったのか分からないぐらいぐちゃぐちゃの赤黒い塊がこびり付いている。
「……シラハ、まさかこのこびりついてる塊って……」
「……うむ。…………人……じゃな」
俺の目測が正しければ、十人近くは死んでいるだろうか。
「……絶望的だけど、念のため生存者を探そう。俺はあっちを探すから、シラハはそっちを頼む」
「うむ」
白刃と二手に分かれ、ゴミの山を掻き分けて生存者を探す。すると、ゴミの間から人の手がだらりと下がっているのが見えた。
もしかしたらまだ生きているかもしれない。そんな淡い希望を抱きながらゴミの山を登り、その腕を掴んだ。
「おい、生きてるか⁉」
少し強めに引っ張る。しかし――
―――ボトッ―――
「……っ」
その腕には、肩から先にあるはずの身体が無かった。いったい、この人はどんな殺され方をしたのだろうか。
その後も身体の一部は幾つも見つかったが、生存者はおろか五体満足の死体さえ無く、どの死体もばらばら。もしくはぐちゃぐちゃになっていた。
くそ……っ、気が狂いそうだ。俺はこういうのに耐性があるからまだよかったけど、普通の人だったら一生のトラウマものだよな。
ほとんど諦め状態になってしまい、溜息をついたそのときだった。
「ツマキ!!早く来るのじゃ!!」
突然聞こえてきた白刃の声。急いで白刃の傍らに駆け寄ると、白刃は一つの布の塊に手を置いていた。血液が染み込んでおり、軽く触れただけで白刃の手がべっとりと鮮やかな朱色に染まってしまうぐらいだ。
「どうしたシラハ?」
「まだ生きておる!!」
最初、白刃が何を言っているのか分からなかった。しかし、直ぐに分かった。白刃が触れている布の塊は、その布を上下させていた。つまり、呼吸しているのだ。
「シラハ!!治療できるか!?」
「容体を確認しないとまだなんとも言えぬが……」
気を付けて布を剥いでみると、傷はかなり酷い状態だった。右の脇腹と左肩には深い銃痕があり、相当出血しているせいか肌には血色が無く、傷口は黒く変色していた。
「太股の掠り傷はいいとして、問題なのは左肩と右脇腹の傷じゃな。肩は恐らくライフルか何かで撃ち抜かれたのじゃろう。骨が砕かれておる。脇腹にはまだ弾丸食い込んだままじゃ」
「治せるのか?」
「やってみよう」
そう言うと白刃は血塗れの裾を捲り、両手を肩の傷にかざした。
──***tempus/ ■vocate-vox──
白刃の両手に光の粒子が集まり、温かい光が現れた。
──curatio■■sanare//=cicatrix──
─────────コンッ───────
水滴が水面に落ちるようなそんな音が鳴り、肩の傷がまるで時間を巻き戻すように徐々に閉じてきた。
「もう……少し…………っ」
白刃が辛そうに言葉を洩らした。
──orare//ritus■■=vita──
「……ふぅ、これで処置は完了じゃ。次は脇腹じゃな」
「治った……のか?」
「砕かれた骨と切れた神経や血管その他諸々は繋いだ。じゃが、完治まではもう少し時間が掛かるかの。どれぐらい掛かるかは、この者の生命力次第じゃ」
そう言い、白刃は脇腹の治療に当たった。
どれぐらい時間が経っただろう。やっと治療が終わり、白刃は大きく息を吐いた。
「これで処置は終わりじゃ。ちと疲れたの」
「…………」
「ツマキ?」
俺の視線は、そいつの顔に釘づけになっていた。まるで白金のような白銀色の髪に、透き通るような白い肌。それに、目を閉じていても分かるぐらいの美少女だ。歳も俺とあまり変わらないだろう。
しかし一番俺の視線を引いたのは、その顔に刻まれた十字の傷だった。横の傷は右頬から左頬にかけて真一文字に刻まれ、縦の傷は左まゆから左頬まで一直線に降りるように刻まれ、その二つの傷が左頬でほぼ垂直に交差していた。
恐らく、何年も前に刻まれたものだろう。
「ツ……ツマキ……」
「ん?どうしたシラハ?」
突然何かに気付いたのか、白刃が顔を紅くしながら頼んできた。
「今すぐにその者から目を逸らしてはもらえぬか?」
「………へ?」
そう言われると、改めてまじまじと見ずにはいられない。
顔の傷ばかりに気が行って気が付かなかったが、目の前で横たわる少女はあられもない姿をしていた。
元々、ボロ裂も同然の古着を何枚も巻きつけていたのだろう。さっき剥いだ布の下には、ほとんど衣服を身に着けていなかった。辛うじて危険な場所は隠していたが、たった一枚のボロ裂を押し上げる胸元のボリューム等色々と―――
「ツマキ、すまぬ」
ブスッ
「目がっ!!目がぁっ!?」
白刃の細い指が俺の両目に見事にクリーンヒットした。動きがめちゃくちゃ滑らかだった。
「分かっておる。こんなときに不謹慎だということは分かっておる。じゃが……この者、同じ女であるわしから見てもとてつもない破壊力じゃ。ツマキには刺激が強すぎるのじゃ」
「ああああああぁぁああぁっ‼」
白刃がなんか言ってた気がしたけど、とにかく今は痛みにのたうち回ることしかできなかった。
言っておくけど、指で目つぶしって失明の恐れがあるんだからな?絶対にやっちゃいけないからな?俺じゃなかったら大変なことになってるところだからな?
やっとヒロインを登場させられました
ヒロインなのに初っぱなから死にかけですいません(汗)
「創世の咎人」もやっと本題に入れた感じです!