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ちゃっくん  作者: 柴犬ちゃすけ


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第六章 おばあちゃん

 今日は、お父さんがお休みの日だ。家族みんなでおばあちゃんのお見舞いに行くことになった。おばあちゃんは、お父さんがお休みの日の前の晩、図ったように「具合が悪くて、もう動けないから助けに来てくれ」と電話をしてくるのだ。だが双子のお姉ちゃん達は、とにかくイベント的なものは何でも好きなので、大喜びしている。おいらもとっても楽しみだ。おばあちゃんの家には、メス猫の『こゆきちゃん』がいるのだ。とっても可愛くておいらと仲良しだ。

 お昼前にみんなで車に乗り込み、おばあちゃんの家へ向けて出発した。

「途中スーパーで買い物をして行きましょう」

 助手席に座っているお母さんがそう言うと、お父さんは笑い出した。

「それがさあ、おばあちゃん、今日は自分で買い物に行くからスーパーに寄らず、急いで来なさい、だって。一体どこの具合が悪いのかねえ」

 お父さんのこの言葉で、お母さんも笑い出した。そういえばいつもみんなで押しかけると、おばあちゃんは絶え間なく動いて、いろいろと料理を作りだす。「これって本当にお見舞いなのかなあ?」って不思議に思うのだが、お父さんに言わせると「あれがおばあちゃんにとっては、最高のお見舞いなんだよ」と言っている。おいらにはちょっと難しくて、理解に苦しむ。

 お昼時に、おばあちゃんの家に到着した。いつもみんなは庭から入ることになっている。庭のサッシは常に開いているのだ。

「おばあちゃん、こんにちは。お体の具合いかがですか」

 お母さんが率先して挨拶をすると、みんなはそれに続いた。だが、中に入ってテーブルを見ると、驚く光景が目に入って来た。お赤飯や揚げ物でテーブル中、埋め尽くされていた。果物もあれば、お寿司までもある。しかも、いつも使っている長方形のこたつ机一つだけでは置き切れなかったらしく、もう一つ同じ大きさの机がくっついて、巨大な正方形になっている。こんな大きな机、一人でここまで運んだことも信じられない。

「これ、卓球台より大きいんじゃない」

 あまりの驚きに、普段物静かでこんな皮肉めいたことを言わないみゆき姉ちゃんまで、思わず口走った。

「あら、いらっしゃい。もうねえ、朝六時にお買い物に行ったらスーパーが開いてないのよ。今日はお休みなんじゃないかと思ってびっくりよ」

 おばあちゃんのこの言葉で、みんなの方がびっくりして、呆然と立ち尽くしていた。しかし、おいらは一つ確信したことがある。双子のお姉ちゃん達は、このおばあちゃんの隔世遺伝に違いない。

「足りなかったかしらねえ。みんな若いからたくさん食べるでしょう」

 おばあちゃんは、そう言いながらも未だ何かを作っている。早速、責任を取るかのようにお父さんが食べ始めた。お母さんも「さあ、みんな頂きましょう」と言って席に着いた。

 だが、おいらと双子のお姉ちゃん達は、それより先にこゆきちゃんに会いたかった。

「こゆきちゃーん」

 まき姉ちゃんが呼ぶと、庭の草木の影から「にゃー」という声とともに、姿を現した。虎柄の模様をした日本猫だ。尻尾が長く、いつも歩く時にピンと立っている。こゆきちゃんは、走っておいらのところに来て、体をすり寄せ始めた。可愛いなあ。だが、人見知りが激しく、おばあちゃん以外は、双子のお姉ちゃん達とおいらにしか懐いていない。お父さんとお母さんは諦めて、出来るだけ構わないようにしているが、みゆき姉ちゃんは、ちょっと悔しいみたいだ。いつも必死で「おいで、おいで」をしているが、全然近付いてもらえない。

 こゆきちゃんは、おいらがまだ二歳、双子のお姉ちゃん達が五歳の時に、ここを訪れた際、おいら達によって拾われたのだ。小雪が舞う日、いつものように双子のお姉ちゃん達と、畑のそばで遊んでいると、近くで「にー、にー」鳴く声が聞こえてきた。その鳴き声の方に行ってみると、どぶにはまって動けないでいる生まれたばかりの子猫を見つけた。

「あ、子猫ちゃんがもがいている。ちゃっくん助けてあげて」

「おいらに任せとけ」

 まき姉ちゃんに言われるまでもなく、急いで助けに行った。暴れる子猫をそこから助け出し、お姉ちゃん達が二人でかわるがわる抱きかかえて、おばあちゃんの家に連れて帰った。すると、おばあちゃんはとっても喜んでくれた。

「あらまあ可愛い。この子猫ちゃん、うちで飼わせてもらえるかしら」

 そう言っておばあちゃんは、子猫を大事そうに受け取り、体を拭いてあげた。そしてこの家でおばあちゃんと一緒に住むことになったのだ。おじいちゃんはお父さんが高校生の頃に病気で他界してしまったらしい。一人っ子だったお父さんは高校を出た後、働くため家を出ることになった。

 それから二十年間おばあちゃんは一人暮らしだ。そんなおばあちゃんの、久しぶりの家族だったみたいだ。いつも夜、一緒の布団で寝ていると言っていた。

 その日の天候からこの名前を付けたとおばあちゃんは言っていたが、本当は別の理由があることをみんなは知っていた。「おばあちゃんとお母さんは仲良しだもんなあ」みんなはそう言って笑っていた。

 昼食を摂った後に、おばあちゃんとみゆき姉ちゃんはお母さんの運転でスーパーに買い物に出かけた。晩ご飯の材料を買いに行くらしい。この母娘三代の組み合わせによる買い物ぶりは、かなり凄そうだ。

 今晩は、おばあちゃんの家にお泊りすることになっている。お父さんは「この調子で晩ご飯も大量に出たら、お腹が破裂しちゃうよ」と言っていた。「ちょっとお腹を減らすため運動したい」ということで、双子のお姉ちゃん達と近所のプールに出掛けて行った。

 残されたおいらは、こゆきちゃんとくっついて居眠りをしていた。どのくらい時間が経ったのかわからないが、かなり時間が経過した気がする。こゆきちゃんがそばにいると本当によく眠れるし、疲れが取れる気がする。

 拾ったばかり頃、こゆきちゃんが何を喋っているのかわからなかった。でも最近、なんか言葉がわかるような気がしてきた。

「ちゃすけちゃん、大きいのにやさしいわね」

「えへへ、そうかなあ」

「ちゃすけちゃん、素敵」

「うひひ、照れるなあ」

 こゆきちゃんったら、やだなあ。そんなに褒めないでよ。おいら恥ずかしいよ。

「お母さん、ちゃっくんヨダレ垂らしてニヤけているよ」

「あらやだ。なんか目がうっとりしているわね」

 ん?おいらは慌てて目を開けると、もうすっかり外は暗くなっていて、目の前にみき姉ちゃんとお母さんの顔があった。あれ?なんだ夢か。こゆきちゃんは、もうとっくにいなくなっていた。でもなんか久しぶりに清々しい気分だ。

 晩ご飯を大量に摂った後、みんなでテレビを見ていると、朝から動き回っていたおばあちゃんの様子がおかしくなりだした。

「年甲斐もなく、張り切り過ぎるからだよ」

 お父さんにそう言われて、普段なら言い返すおばあちゃんだが、そんな元気も残っていないみたいだ。夜も浅い時間だが、青白い顔をしたおばあちゃんは「頭が痛くて目まいがする」と言って、みんなより先に寝ることになった。

 おばあちゃん大丈夫かなあ。でもこれはおいらでは、どうすることも出来ない。自分の意思で行動している以上、時間を戻しても同じことを繰り返されてしまう。すると、そばにいたこゆきちゃんが、こっちを見て笑っている、ような気がした。

「ちゃすけちゃんは、みんなのことを愛してしまうから苦労が耐えないでしょう。私はね限られた人だけしか愛さないことにしているの。だから、とっても気楽よ。おばあちゃんのことは、私に任せておいて」

 え?今度は夢じゃないよなあ。こゆきちゃんは、そのままスルスルっとおばあちゃんの布団に入り込んで行った。


 翌朝、まだ暗いうちから掃除機の音が聞こえ始めた。

「ほら、あんた達いつまで寝ているの。もう朝の四時よ」

 おばあちゃんが、すっかり元気になって掃除機をかけている。実に軽快なフットワークだ。

「もう四時って、まだ暗いじゃないか」

 お父さんが文句を言ったが、そんなの耳に入らないかのように「ほら起きなさい。もうとっくに朝ご飯は出来ているのよ」と、鼻歌混じりに掃除を続けている。みんなが必死で寝続けようとしているにも関わらず、おばあちゃんのお喋りは続く。

「なんか、いつもあんたに具合が悪い、って言っているのは別に嘘じゃないのよ。ただ次の日にすっかり元気になっているのよねえ。不思議だわ」

 おばあちゃんのそばには、きちんと足を揃えて座っているこゆきちゃんがいた。そういえば、おいらも普段は小さな物音でも、ちょっとした匂いの変化でも起きるのに、昨日こゆきちゃんと寝ていた時、すっかり熟睡してしまった。そして起きた時、今までにない気分になれた。これは、こゆきちゃんの力なのかもしれない。

「凄い力持っているんだね」

 おいらは、こゆきちゃんに話し掛けた。

「うふふ、ちゃすけちゃんほどじゃないわよ」

 こゆきちゃんは、こちらを見て微笑んだ、ように見えた。

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