第四章 加藤みき
双子のお姉ちゃん達にとっては、待ちに待った土曜日を迎えた。ところが、どうもこの二人以外のみんなの様子がおかしい。
「弱ったなあ、おばあちゃんの具合が悪いらしい。お見舞いに来てくれって言われているんだよ」
これは双子のお姉ちゃん達と、お祭りに行く約束をしていたお父さんのセリフだった。おばあちゃんは、お父さんのお母さんで、うちから車で二十分ほどのところに住んでいる。ここと同じように周りには田畑しかない田舎の一軒家だ。最近調子が悪いらしく、お父さんはお休みの日に、頻繁にお見舞いに行っている。
「困ったわねえ。私はみゆきのピアノの発表会に行かないといけないし」
お母さんも、眉間にシワを寄せてそう言った。今日は、夕方からみゆき姉ちゃんのピアノの発表会だ。ピアノの先生は、お母さんのお友達らしい。みゆき姉ちゃんのピアノの才能に対して、先生からは「トンビが鷹を産むってこのことね」などと、ちょっと皮肉られて言われている。もちろん、お母さんは自分が何を言われようが、みゆき姉ちゃんが褒められているため大喜びだった。みゆき姉ちゃんのピアノに関して、お母さんは特に力を入れている。
お祭りに誰にも連れて行ってもらえなくなってしまう双子のお姉ちゃん達だが、別段困った顔などしていない。
「あたし達なら大丈夫だよ。気にしないで」
まき姉ちゃんは、まだ午前中なのに既に浴衣を着て、お金を入れた巾着袋を手にぶら下げ、行く気満々でいる。
「夜二人だけで行かせる訳にはいかないでしょう」
お母さんは心配そうに、二人の顔を見た。
「ちゃっくんもいるから大丈夫だよ」
みき姉ちゃんは、当たり前のようにそう答えた。こちらも既にお揃いの浴衣を着ている。お母さんは、おいらの顔をじっと見つめて、不安そうにしている。
「お、おいらに任せとけ」
強烈なプレッシャーにも負けず、ちょっと強がってみた。まあでも、おいらが一緒なら夜でも大丈夫だろう。昼間と同じように見えるのだ。
「ちゃんと戸締りして、外に出たらちゃすけから離れたらダメよ」
ついにお母さんは諦めたようだ。
「はーい」
「はーい」
現金な二人は、まるで感情のこもっていないような返事だけをして、はしゃぎ回っていた。
夕方近くにお父さんは、お母さんとみゆき姉ちゃんを車に乗せて出かけて行った。おばあちゃんの家へ行く途中に、ピアノの発表会会場である公民館のそばを通過するのだ。三人の帰りは、夜遅くになるらしい。
この季節の日は長いものの、もうだいぶ傾いてきた。おいらと双子のお姉ちゃん達はちゃんと家の戸締りをして、鶴亀神社の境内に向かった。この神社は高いところにあり、境内へは二つの入口がある。階段を登って行く入り口と、そのまま高台から道続きになっている入り口だ。加藤家は低いところにあるため、階段を登る方の入り口をいつも利用している。
長い階段を登ると既に、たくさんの出店が並んでいて、大勢の人達で賑わっていた。出店をやっているのは、近くの商店の人達で、ほとんどが知り合いだ。
「おや、加藤さんとこのお嬢ちゃん達、これ持って行きなよ」
駄菓子屋さんをしているサクラお婆さんが、氷水で冷やされているサイダーを差し出してくれた。二人は満面の笑みを浮かべて、それを受け取った。
まき姉ちゃんとみき姉ちゃんは毎月五百円のお小遣いをもらっているが、もらったその日にサクラお婆さんのお店で使い果たしてしまう。いわばお得意様だ。今日に限っては、特別にお父さんがくれたお小遣いを持ってきた。
「ちゃっくんにも少しあげるね」
まき姉ちゃんがサイダーを分けてくれようとしたけど、そんなもの要らないよ。
「はい、どうぞ」
「いてて、鼻に炭酸が掛かっちゃったじゃないか」
おいらの口に瓶を押し付けて傾けたものだから、ドボドボとこぼれてしまった。もう鼻が痛がゆくて、くしゃみが止まらない。
「あ、イカ焼き。まきこれ好きなんだ」
こっちが苦しんでいるのに、全然気使ってくれないなあ。まき姉ちゃんは、匂いに誘われるかのように、イカ焼き屋さんの前に立った。店番をしていたのは、魚屋さんのところの奥さんで、ランさんと呼ばれている人だ。
「あら、みきちゃんの方かしら?三百円だけど、百円で良いわよ」
まき姉ちゃんは、間違われるのに慣れているので、いつも訂正しない。あるいは「まきだよ」と言ったら、まけてもらえないと思ったのかもしれない。しかしそんな思惑を察して、おとなしくしているみき姉ちゃんではない。
「私がみきだよ」
みき姉ちゃんは、訂正してしまった。
「あら、ごめんなさい。みきちゃんにもまけてあげるから買って行って」
結局二人とも百円でイカ焼きを売ってもらった。なんか小声で「あたし達かわいいから得しちゃったね」などと話しながら嬉しそうにイカ焼きを頬張っていた。誰もそんなこと言っていないのに。
「ちゃっくんにもイカあげるね」
今度は、みき姉ちゃんが小さく切って分けてくれようとしたけど、これも要らないよ。イカは好きじゃないのだ。しかしまた無理矢理、口に放り込まれてしまった。一応もぐもぐしている振りをして、二人が見ていないところで出してしまおう。
お母さんから「絶対に金魚すくいだけはやらないように」と言われていた。それは、この二人が三歳の時に金魚すくいをしたものの、一匹もすくえず大泣きしてしまったことがあった。その声は、楽しそうに行き交う人達の気持ちを一気に豹変させ、目を座らせた。座った目の先に映った光景は、まるで店番をしていた強面のおじさんが泣かせたように見えたらしい。おじさんは、周りの人達から刺さるような視線と口撃を受けた。
「どうせ、すぐに破けるように細工してあるんでしょう」
「小さい子供相手に、ひどい商売よねえ」
「あの人どこの人?見かけないわねえ」
「ちょっとオレが文句言ってきてやる」
全員がこの近所では、アイドル的な存在である双子の姉妹の味方についた。慌てたおじさんは、引きつった笑みと震える手で「ごめんね、お譲ちゃん達の網、壊れていたみたいだね」と言って二人に、五匹ずつ袋に詰めて持たせてあげた。そばにいたお母さんは「すみません、もうこの子達が下手なのに」と頭を下げて、強面のおじさんの目を見たら真っ赤に充血していたらしい。
その金魚達は現在、一匹も欠けることなく巨大なフナのようになって大きな水槽内を縦横無尽に泳ぎ回っている。水が濁ってきて、水槽を洗ってあげるためには、いつもお父さんとお母さんの二人がかりの作業だ。それを月に一回くらいのペースで行なっている。そのくせ双子のお姉ちゃん達は、もう全く興味を示さず、餌すらあげなくなってしまった。餌をあげるのもお母さんの日課になっている。
翌年から金魚すくいの店番の人は替わったそうだ。お母さんはそれから申し訳なく感じているらしく、お祭りに行きたがらなくなった。そりゃあさすがに「やらないように」って言いたくなるかもなあ。
そんな強面のおじさんを半べそにさせた強者であるこのお姉ちゃん達は、次の出店で『ウルトラマン』と『仮面ライダー』のお面を購入した。普通は女の子のお面とかを好みそうだが、なぜか正義の味方が大好きだ。だがここで違うお面を頭に付けたことで、周りからはボソボソと囁く声が聞こえてきた。
「まきちゃんがウルトラマンで、みきちゃんが仮面ライダーよ」
恐らく二人には聞こえていない小さい声だったが、おいらにはしっかりと耳に届いた。周りの人達は、二人を判別する方法を得てちょっと嬉しいみたいだ。
その他、わたあめや光る輪っかのようなものも揃って買っていた。お父さんにもらったお小遣いも残りわずかとなってきた。だがこの二人の性格上、使い果たすまで絶対に帰らないだろう。
出店が並ぶ通りは、二つの入口に沿って並んでいる。お姉ちゃん達は、階段側の入り口の方の出店を抜けて、人気の少ない場所までやってきた。今度は高台側の出店に向かうつもりだ。ほとんど同じ物しか売られていないと思うが、行かないと気が済まない。
するとそこで、みき姉ちゃんが突然「おしっこしたい」と言い出した。あんなに調子に乗ってサイダーを飲んでいるからだ。まき姉ちゃんは、半分近くおいらに掛けたからトイレには行きたくないみたいだ。
「トイレは入口の方にあったね」
まき姉ちゃんは、今歩いて来た方を指差して答えた。高台側の方は普段行かないため、トイレがあるかどうか記憶が定かではない。
「じゃあ、行ってくるけど、ちゃっくんはどうする?」
みき姉ちゃんは、おいらの顔を見ながら尋ねてきた。今いる場所は、ちょっと人気がなく、入口の方は賑わっていたため、まき姉ちゃんとここで一緒にいた方が安全だと判断した。
「おいら、ここで待っているよ」
そう言って、まき姉ちゃんの方に近寄った。
「じゃあここで待っててね」
みき姉ちゃんは、足早に立ち去って行った。
おいらとまき姉ちゃんはここにいることになったが、おとなしく待っているまき姉ちゃんではない。
「ちゃっくんにもお面貸してあげるね」
そう言うと、おいらの頭にお面を取り付けてしまった。後頭部のあたりにウルトラマンがいる。取ったら怒るだろうから、そのままじっとしているしかない。早くみき姉ちゃん帰って来てくれないかなあ。
十分ほど経っても、まだ帰って来なかった。今度はおいらの足に、光る輪っかを取り付けて笑っている。良いおもちゃになっているなあ。
さらに時間が経過した時、おいらは尋常じゃない胸騒ぎを感じた。それは今までに感じたことのないほど大きく、嫌な感じがするものだった。まき姉ちゃんを見てみると、目を大きく見開き、何かに怯えているような表情をしていた。
心配になっておいら達は、急いでみき姉ちゃんを探しに行くことにした。途中でたくさんの人達とすれ違う。
「ちゃっくん、みきちゃんを見逃さないでね」
まき姉ちゃんは、心配そうにキョロキョロしているが、そんなこと心配には及ばない。どんなに人が多くても、みき姉ちゃんを見逃すはずがない。なんたって頭に仮面ライダーのお面を付けている女の子なんて他にいない。
人混みを抜けて入口近くまで戻ったが、みき姉ちゃんはいなかった。
「みきちゃん見かけませんでしたか」
まき姉ちゃんは、近くにいた人に聞いた。
「みきちゃんっていうと仮面ライダーね。ずっとここにいるけど見かけなかったわよ」
噂は広がっており、仮面ライダーがみき姉ちゃんであることが知れ渡っていたみたいだ。だがトイレに行くのにここを通過していないのはおかしい。不安が募る中、おいらは周りの雑踏が全く感じなくなるほど嗅覚に全神経を集中させた。
「確かに、ここにはみき姉ちゃんは来ていない」
まき姉ちゃんにそう伝えて、少し戻ることにした。
「みきちゃんどうしちゃったんだろう。なんか怖いよ」
まき姉ちゃんも不安を感じているみたいだ。双子特有の伝達力があるとすれば、その力で何かを察したのかもしれない。
「ここまでは来た形跡がある。そしてこのまま曲がったみたいだ。こっちだ」
感じる。おいらは、みき姉ちゃんの向かった先へまき姉ちゃんを誘った。そこは、先日一緒に昆虫採集をした森の中だった。
「え?なんでこんな森の中に入ったの?真っ暗じゃない」
まき姉ちゃんは、怖がっておいらにしがみつきながら、一緒に森の中へ入って行った。しばらく行くと、出店の光もわずかにしか届かなくなって来た。頼りの明かりは、おいらの足に付けられている、光る輪っか程度だった。しかし、この程度の光さえあれば大丈夫。おいらには普段と変わらず見ることが出来る。だが、みき姉ちゃんはまだ先に入って行ったみたいだ。
え?これは、血の匂い。しかし生き物の気配は感じない。どうゆうことだろう。さらに奥に進むと、目の前に信じられない光景が入って来た。おいらには既に見えているが、まき姉ちゃんにはまだ見えていないみたいだ。出来れば見せたくはないが、見せないわけにもいかない。覚悟を決めて、おいらは光る足をそっとそこへかざした。まき姉ちゃんの目にもようやく映ったみたいだ。無残に体中切り刻まれてボロ雑巾のようになっている、みき姉ちゃんの姿が。
「きゃーー、みきちゃん。誰か救急車呼んでー」
まき姉ちゃんの大声を聞いて、何名かの出店の人達が気付いたみたいだ。いくつかの懐中電灯の光がこちらに向いた。
「どうした?大丈夫か?」
遠くから男の人の声がした。まき姉ちゃんは狂ったように泣き喚いていた。おいらは、状況を把握するために、みき姉ちゃんの体に顔を寄せた。もう呼吸もしていない。心臓も動いていない。そして血の匂いの中に混じる微かな異様な匂い。
誰にも気付かれなかったのか。恐らく叫ぶ暇も与えず、一瞬でみき姉ちゃんをこんな目に遭わせたんだろう。ちょっと不安だけど、そんな奴においら勝てるかなあ?
「お願い。ちゃっくん何とかしてー」
まき姉ちゃんはおいらに抱き着きながら、涙ながらにそう言った。
「わかっているよ。おいらに任せとけ。だから安心して。もう泣かないで」
大勢の人達がこちらに向かって来た。遠くに見える明るさの違う懐中電灯の光はまるで光り輝く星空のようだった。そろそろ行かないと。おいらはまき姉ちゃんの耳に、自分の顔を近付けて「またね」と小声でささやいた。
「じゃあ、行ってくるけど、ちゃっくんはどうする?」
みき姉ちゃんは、おいらの顔を見ながら尋ねてきた。
「おいら、みき姉ちゃんと一緒に行くよ」
そう言って、みき姉ちゃんの方に近寄った。もちろん即答だ。
「あれ?ちゃっくん口の周りに、なんか赤いものがいっぱい付いているよ。どうしたのそれ?」
まき姉ちゃんはこっちを見ながら、不思議そうに尋ねてきた。
「え?ああ、これなんだろう?途中で拾い食いしちゃったかなあ」
適当にごまかしたが、まき姉ちゃんは首を傾げていた。まさかみき姉ちゃんの血だなんて言えない。
「じゃあまきちゃん、ここで待っててね」
みき姉ちゃんはそう言って、足早においらと一緒にここを立ち去った。途中で邪魔になるからと言って、おいらの頭に仮面ライダーのお面を取り付けた。後頭部のあたりに仮面ライダーがいる。やっぱりこの二人、やること同じだなあ。
出店が並ぶ人混みの中を抜けて、入口付近にあるトイレが見える場所まで戻ってきた。すると、女子トイレ側だけ外まで長蛇の列が出来ているのが目に入り、みき姉ちゃんは足を止めてしまった。男子トイレは列すら出来ていない。人が集まる場所での女子トイレ特有の現象だ。男子トイレと比べて、便器の個数が少ない上に一回あたりにかかる時間が若干長いためだ。
この場所は、さっきみき姉ちゃんが曲がって進んで行った場所だった。
「ちゃっくん、みきあんなに待てないよ。おしっこ漏れちゃう。そうだ、この前虫捕りした森でしちゃおう。あの森は安全だもんね」
そう言って、みき姉ちゃんは道から外れ、森に入って行った。そうか、あの森に案内した、おいらにも責任があるんだなあ。
「暗いね。ちゃっくんに、これ貸してあげる」
やると思った。光る輪っかをおいらの足に取り付けた。そしてさらに奥へ進み、いよいよ忌まわしき光景を目にした場所までやってきた。
「この辺まで来れば、誰にも見つからないね。ここでしちゃうから、見張っててね」
みき姉ちゃんは、浴衣のすそをまくり上げて座り込んだ。
「うん。何があっても、みき姉ちゃんを守ってみせるから安心して」
絶対に負けないよ。おいらは、鼻にしわを寄せて臨戦態勢を取った。そして森のさらに奥にある、一回り大きな木だけを見つめていた。隠れていてもわかる。昆虫採集の時に感じた気配と、さっきみき姉ちゃんの体から漂った匂いの主が、あの木の陰に隠れて様子を伺っているのが。
その主は、木の影からそっと頭を出してこちらを見た。それは、体長一メートル二十センチほどのツキノワグマだった。この種の熊としてはそれほど大きくはない。まだ子供みたいだ。だがこの大きさでも、七歳の女の子が襲われたら、確かに一瞬かもしれない。そうか、あいつか。じゃあ、悪いけど負ける気がしない。
「かかって来い!」
おいらは叫んだ。するとみき姉ちゃんが慌てたように、話し掛けてきた。
「ダメだよ、ちゃっくん。みきがここでおしっこしてるの、みんなにばれちゃうじゃない」
なるほど、それで熊に襲われても、みき姉ちゃんは声を出せなくて誰にも気付かれなかったわけか。
しかし、熊は襲って来なかった。動物的な直感で勝てないことを悟ったみたいだ。こっちを見てかなり怯えている。今も震えているのを感じる。そりゃあなんたって頭に仮面ライダーのお面付けて、足が光っているんだから、得体の知れない化け物だと思ったに違いない。
「ちゃっくん、見張りありがとうね。まきちゃんのところに戻ろう」
みき姉ちゃんは立ち上がり、再び露店の光の方へ向かって歩き出した。だがここで安心してはいけない。熊は背中を見せて逃げるものを襲う習性があるため、必ず前を向いたまま下がらないと危険なのだ。おいらはみき姉ちゃんの背中が、相手から見えないように隠した。そして後退りしながら付いて行った。
なんとか露店の並ぶ人混みまで戻って来た。ここまで来れば一安心。するとすれ違った人から得意気に話し掛けられた。
「あら、みきちゃんじゃない。まきちゃんならあっちで待っていたわよ」
二人を判別出来るのがとっても嬉しいらしい。
まき姉ちゃんとの待ち合わせ場所へ向かった。ふう、何とか無事に戻ることが出来た。おいら達が戻ると、そこにはウルトラマンのお面を付けたまき姉ちゃんが待っていた。
「みきちゃん、お帰り。トイレ混んでなかった?」
「うん、全然混んでなかったよ」
みき姉ちゃんったら嘘ばっかり。でも確かに森は空いていたかもね。まき姉ちゃんと合流して、二人はまた明るく楽しい会話を弾ませた。一時はどうなることかと思ったよ。
普段は足を運ばない高台側入り口付近の方でも、同じような露店ばかり並んでいた。そんな中でも二人は、今日初めて見かけた水ヨーヨーの露店に立ち寄った。そこでお互いに一つずつを購入した。二人共青色が好きなため、同じ青のヨーヨーを選んだ。
二人が水ヨーヨーで遊んでいる姿なんて今まで見たことがない。一体どうやって遊ぶんだろう?って疑問に思ったおいらの考えが甘かった。
「ちゃっくん、ぼーん」
ちょっとお。二人共、水ヨーヨーぶつけて遊ぶの止めてよ。とにかくおいらをおもちゃにして遊ぶ行動パターンは、いつも同じみたいだ。二つの水ヨーヨーが連続して頭に当たる。まったくもう。
楽しい時間が流れるのは早い。あっという間に夜も更けてきた。二人は、疲れてきたらしく、そろそろ家に帰ることにした。夜でも外で遊んでいるという、ちょっとした冒険心も満たされたみたいだ。
帰りの夜道は、街灯がほとんどないため、真っ暗な日もある。しかし、今晩は運良く満月で、とっても明るかった。繁華街の方では、通り魔が出たという事件があり、明るくても油断は出来ない。でもまあ、おいらが一緒だから襲われる心配も無いだろう。今はもう頭に、ウルトラマンと仮面ライダーのお面を付けている。これじゃあ、まるでギリシャ神話に出てくるケルベロスじゃないか。大体自分達が欲しくて買ったくせに、すぐ飽きておいらに粉飾して遊ぶんだもんなあ。
家に戻ると、既にみんなは帰宅していた。
「ただいまー」
帰りの途中で「もう疲れた」とか弱気なことを言っていたくせに、家に着くと、とたんに元気になった。
「おかえりー」
みんなからも声を掛けられて、二人は興奮気味にお祭りの話を始め出した。お母さん達はニコニコしながら、それを聞いてくれた。もちろん、双子のお姉ちゃん達の方は、みゆき姉ちゃんのピアノの発表会の出来栄えとか、おばあちゃんの体の具合なんかを聞く耳は持っていない。一方的に話すだけだ。
「楽しくて良かったわね。ちゃすけもお疲れさま・・・ん?あんたどうしたの、その口。どす黒いもの付けて。二人と一緒にお風呂に入って流してもらいなさい」
「こ、これは、違うんだよ。そのー、なんていうか・・・」
って言い訳しても、許してもらえそうにない。信じてももらえないだろう。もう諦めることには慣れた。
赤かった口の周りは時間が経ち、既に黒く変色していた。おかげでこれが血だということが、ばれないで済んで良かったと思うことにしよう。お母さんは熊より怖いからなあ。でもお風呂だけは、何度入っても慣れないなあ。




