15-この世にタダなもんはないんだ――よっ!
短い二つのサイドピグテールを結んだ茶色の短髪の少女が、スリ達のアジトの腐りかけた木の床に胡座をかいて座っていた。白いストライプの入ったオーバーサイズのオレンジ色のジャケットが細い体をすっぽりと包み、足首のあたりでたぷたぷとしているダボダボの黒いカーゴパンツを合わせている。器用な指が慣れた手つきでコインを一枚ずつ数え、無邪気な顔に満足げな笑みが広がっていた。
「カマエ、今日いくら引いた?」隅の古ぼけたソファから、凝ったブレイドに編まれた明るいピンクの髪の少女の声が聞こえた。丸みのある体にメタリックパープルのクロップトップとタイトなレザーパンツを合わせ、頭を動かすたびにゆらゆらと揺れる大きなフープピアスをつけている。
カマエは顔を上げ、勝ち誇ったように暗褐色の瞳を輝かせた。「ニッキー!大物を釣ったよ!」小さなコインの袋を持ち上げてジャラジャラと振ってみせる。「見て!ぶつかった時に気づかれなかったよ!」
ニッキーは感心して口笛を吹き、ソファに寄りかかった。「さすが、逃げ足だけは本当に天下一品だね!」
カマエは明るく笑って、また戦利品を数え始めた。午後の風が木の壁の隙間からすり抜け、下から錆びた鉄と蒸気パイプの煙の匂いを運んでくる。
だが——暗いバルコニーの影から、一対の鋭い目が二人を見ていた。日高は音も立てず、腐りかけた木の柱の陰に完璧に身を隠している。すでに指は動く準備を整え、足はカマエを掴むための体勢で固められていた。
しかしその時——
「ところで、天の彼氏はどこ?」カマエはコインを小袋にしまいながら聞いた。「コナンと一緒にスリしてるの?」
日高がその場で固まった。
「カマエ!」ニッキーが即座に、至って真剣なトーンで叱った。「その名前、ほいほい言わないでよ!ちゃんとトマって呼ばなきゃ」
カマエは目をぐるりと回した。「もう、ニッキーってば。こんな上まで誰も聞こえないって」
ニッキーは長いため息をついてから、ピンクの髪を直しながら答えた。「コナンとシンゾウはトマと一緒にロック村に行ってるよ。リル・キロとジビはいつも通りの仕事」
「ロック村?」カマエが勢いよく立ち上がり、日高のコイン袋を頭上に高く掲げた。顔いっぱいに満面の笑みが咲く。「みんなが帰ってくるまでに、このお金でヒホ村最高の酒をトマに買ってあげよう!もう一回パーティーできるじゃん!」
「それは楽しそうだ」カマエの背後から突然、低い声が入り込んできた。一本の手が伸びて、コイン袋を持つ手首をがっしりと掴む。「天の彼氏とパーティーしてみたいな」
カマエが固まった。
「だが」日高は冷たく続けた。「俺は自分の金を使う。お前のじゃない」
「きゃあっ!」カマエの目が、真後ろに立っている黒いマントの赤毛の男を捉えて丸くなった。
「なんで——」カマエの言葉は最後まで出てこなかった。
ヒュッ!
ニッキーが廃材の鉄パイプを日高に向けて投げつけた。しかし日高は素早い動作でカマエの体を盾にしてそれを躱すと、そのまま彼女を床に下ろして膝で押さえ込んだ。
「カマエ!」ニッキーが踏み込み、日高の頭を狙って飛び蹴りを放った。
ガシッ!
日高は右手でニッキーの足をキャッチし、その目を真っ直ぐに見据えた。「悪くない力だ」と平坦に呟く。そして一回捻るだけで足を引っ張り、ニッキーをソファへと派手に叩き込んだ。
「うっ!」ニッキーが痛みに呻く。
日高はまだ床に転がっているカマエを見下ろした。「逃げ足は本当に大したもんだな」彼はそう言いながら立ち上がり、コイン袋を回収した。
「でも俺から逃げるには足りない」
カマエは恐怖に満ちた目で日高を見上げた。体が震えている。
「本当はな」日高は袋を腰に結び直しながら続けた。「スリをしかけてきた礼儀を教えてやろうと思ってたんだが」
ニッキーとカマエが狼狽えた目を見合わせた。
「だが、お前の口から『天の彼氏』って名前が出てきたから気が変わった」日高は二人を重い目で見据えた。
「まさか……」カマエとニッキーが声を揃え、顔から血の気が引いていく。「あんた……布軍!?」
「違う違う違う」日高はすぐに答え、カマエを解放して一歩下がった。
ニッキーとカマエが安堵の息を吐いた。体の緊張はまだ抜けていないが。
日高はカマエに真剣な目を向けた。「さっきそっちが言ってたみたいに、天の彼氏の名前はうかつに使うな」顎でニッキーの方を示す。「聞いてたのが俺でよかったな」
カマエは唾を飲み込んだ。「も……もし布軍じゃないなら、あんたは誰なの?」
日高は薄く笑った。コイン袋から依頼書を取り出しながら、確信に満ちた目をする。
「俺は運び屋だ」
カマエとニッキーの目が完全に丸くなった。紙の中身を見た瞬間、こめかみに青筋が浮かぶ——糸京の配達先住所がずらりと並んでいるだけだ。
「マジで!?ただの運び屋かよ!?」二人の叫び声がアジト全体に響き渡った。
ゴンッ!ゴンッ!
日高は苛立ちをあらわにして、二人の頭を同時に叩いた。「少なくとも俺の仕事はスリよりマシだろ、このガキども!」
「いたっ!」カマエとニッキーが頭を抱えてすくむ。「ごめんなさい!ごめんなさい!」
日高は長いため息をついてから、真剣な目で二人を見据えた。「それで、そのトマって奴がロック村に行く理由はなんだ?」
カマエとニッキーは顔を見合わせ、頭を寄せて相談しながら日高をちらちらと振り返った。
「ねえニッキー、こいつ危なくない?」
「布軍じゃないなら問題ないでしょ」
二人は頷き合ってから、真剣な表情で日高の方を向いた。
「運び屋のおにーさん、この世の中タダなものなんてないからね」カマエは最高の悪役フェイスを作り上げたが、眉がひくひくと言うことをきかなかった。
「トマの情報のお値段は、糸京から来たやきにくの残りかすなんかよりずーっと高いんだから」ニッキーは腕を組んでぶんぶんと頷いた。
フンッ!フンッ!とカマエも鼻を鳴らしながら激しく頷いた。
「チッ、生意気なガキどもめ」日高は二人を睨みつけてから、コイン袋をカマエに投げ返した。
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ねえ、ここまで読んでくれてありがと〜!^^
どこで読んでる誰かさん、本当に感謝してるよ。
よかったら応援してくれるとめっちゃ嬉しい!
その分、もっと頑張って書くからさ。
みんなのこと、大好きだよ!




