38/49
第三十八話「欠如」
「……」
「……」
我と血嬢は、ベンチに座ったまましばらく黙っておった。
まるで、新しい春風を待つかのように。
「ひとつ聞きたいのだが、なぜお主がここにいる。」
「お嬢様が久しぶりにお顔を出された気配がいたしまして」
相変わらず変わったやつだ。
最新鋭のソナーを積んでいるわけでもないはずなのだがな。
「そうか、なら行くべき場所は同じということだな」
「まさか、ここ…悪魔様もお嬢様にお会いなさるのですか」
「少し用があってな」
我もこのままの状態では、観覧車までいけないからな。
今回ばかりは、こやつの助けを借りることにしよう。
「……」
「血嬢」
我が声を発するときには、日傘で作られたような大きな影があった。
「それでは観覧車に赴くことにいたしましょう、悪魔様」
ふと、上を見上げると血嬢が我に手を差し伸べおった。
「……」
「お主は、昔から本当によく他の存在を見ておるな」
「背筋が曲がっておられましたから」
人間界と地獄での縛りは違うと言えど、
それで特定できるというのがお主のすごいところだ。
「……」
我たちは静かにゆったりとリムジンに乗り、
埃の舞う車内とチンダル現象を眺めながら、
毒のよくしみ込んだハンカチを口元に当てるような、
そんな空気のまま観覧車に着くまでの時間を共にした。




