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第十二話 「帰路」
時刻20時40分
「何をやっておるのだ、我は」
上司に卵焼きのように
言いくるめられた我は帰路についておった。
夜街のきらびやな雰囲気が
今日はなぜだか…気になる。
「!」
危ない、危ない。
前をぼんやり見ておったせいで、
店前の看板に盛大にぶつかりかけた。
「…ここは」
ふと見上げると、
チカチカと光る看板が目に止まった。
5F メタバース体験施設
「お客様どうでしたか?」
器具を外したばかりで、
我の視線が安定しない。
「良かった…です」
我は小一時間ほど、
VRやARの体験をしてしまっていた。
やってみた感想としては、
アバターの画質が現世よりも粗い点に、
最初は違和感を抱いていたが、没入感が圧巻だったな。
空を鳥のように飛んだり、海をイルカのように泳ぐのは
人間界ではできないからな。
…本当に、
人間の想像力と貪欲な精神は計り知れぬ
我ももう少し欲深くあらねばな。
……
我は人間と比べる必要すらないほど、
欲にまみれておるに決まって…おる
時刻22時00分
今日は、そのまま家に帰るつもりだったのだがな。
まあ、こんな日も…悪くはないか。




