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第三章 五歳 09

 民衆は浮かれたように、かつて支配者層だった者たちや、そうでない者たちを断頭台に送り続けている。


 法はあっても機能はしていない。


 密告があれば、即座に有罪判決が下る。判事と検事のみで裁判をやっているようなものだ。


 最初は断頭台は民衆にとって娯楽のようなものだった。


 だが、断頭台に送られるのは自分たちも一緒なのだと気づくことになる。


 ある意味今の共和国政府は、平等であった。無秩序に誰もが断頭台に送られ続けている。


 それは、革命を成功させた指導者自身であっても同様であった。


 恐怖政治。


 まさしくそれである。


 さらに恐ろしいことに、それをもう誰も止めることが出来なくなっている。


 仮に可能性があるとしたら、英雄が現れること。


 華々しい戦果を引っ提げ凱旋し、数多の民衆から圧倒的な支持を得る。


 それが叶ったなら、共和国は一瞬で立て直すことだろう。


 今、王国を引っ掻き回している武将は、英雄となろうとしているのか、はたまた……。


 そこまで考えてライゼはやめた。


 思考がズレてしまっている。


 今考えるべきことは、家族が生き延びることだ。


 それも、家族が生き延びるだけではダメだ。


 きちんと生計を立てていくための基盤が必要となる。


 そうなれば答えはもう決まったようなものだ。


「父さま、ここは領都トルクは迂回して、王都に向かいましょう。薄情なようですが、この領はもうダメです。今度の戦争に勝利しても、食糧難はどうにもならないでしょう。一刻も早く王都に到着し、そこでなんとか生活の基盤を整えるべきです」


 王国側は領都で罠を仕掛ける可能性が高いと、ライゼは判断する。


 それに敵武将がそれに乗るかどうかは分からないが、どちらが勝利してもこの戦争はそこで終わる。


 ライゼはそう判断する。


 敵武将が勝利したなら、凱旋するための条件が整うわけだし、王国側が勝利するなら敵武将は討ち取られることになる。


 それが確定する前に、王都に到着していれば、戦後処理が始まる前に生活基盤を確保することができる。


 戦後復興時には需要が高まる。


 王都内に基盤を確保出来てさえいれば、家族が暮らしていくには十分な収入が見込めるはずだ。


 ただそれは、時間との勝負になる。


 混乱時のどさくさを狙うわけだから、落ち着いてしまえば単なる難民となってしまう。


 だが、今使っている一頭立ての馬車では、早く移動することはどうにも困難だ。


「敵から奪うか……」


 ライゼはボソッと呟いた。


 ないのならば、どこかから入手すればいい。


 そしてライゼは入手先に心当たりがあり、入手手段も持っている。


 その様子を、リビンが訝し気な表情で見ていたが。


「父さま。この馬車、乗り換えましょう。僕が代わりの馬車を入手します」


 俺が告げると、あきれたように。


「おいおい、代わりの馬車なんてどこにあるんだ?」


 周りを見まわしながら言う。


 道の周囲に建物らしき物はなく、あるのはせいぜいダガーウルフの死体くらいだ。


「まだ見えないですが、この先にありますよ。僕が先に行きますので、このまま道を進んできてください」


 それだけ言い残すと、ライゼはすぐに動く。


 これはスニーキングミッションになる。一人で動く方がやりやすい。


 軽気を使い走り出すと、背後からの声もすぐに聞こえなくなる。


 後で怒られるかも知れないが、今はやるべきことをやるだけだ。


 さて、心当たりなのだが。


 敵の動向に関して、ライゼはこれまでずっと気を探っていた。


 そのため、この先にある町に敵部隊が展開していることに気づいている。


 数からいって、本体ではない。位置からみると、おそらく補給部隊だろう。


 町や村を襲い、現地の食料を略奪する。


 とっくに町から人は消え、食料も持ち出されるか焼き払われるかしているのだろうが、それでも確認のために派遣しているといった所か。


 軍人達を食わせていくだけの糧食を必要としている。


 補給という名の略奪を実行するために必要な、武力と搬送方法を有しているのはほぼ確定と考えて間違いないだろう。


 迂回するつもりだったのだが、予定変更だ。


 接近すると敵の気がはっきりとしてくる。数は十五。微差なので良く分からなかったが、強そうなのが二人ほどいるようだ。


 町が見えてくる。


 入口付近に兵士が一人。武器は槍。一般兵だろう。近くに他の敵の気は感じられない。


 ライゼは気配を消して近づき、背後から腕を首に絡めて折る。


 声を立てる暇もなく、共和国兵は動かなくなった。


 建物の陰に死体を隠すと、そのまま町の中に入る。


 まずは、数の少ない兵から狙う。


 出来れば一人になっている所をステルス状態で処理していきたい。


 理想としては、最後まで気づかれることなく、全員を始末したい。


 この町にいる共和国兵は、一人も逃がしたくない。


 追手がかかれば、スニーキングミッションでの処理と違い難易度が跳ね上がる。


 ライゼが一人に拘ったのもそのためだ。


 気を探ると、どうも敵は町の中央付近に集まっているようだ。


 恐らくそこに何かがあるのだろう。


 町の外周部を巡り、一人になった共和国兵を次々に狩っていく。


 音を立てず、声を立てさせず速やかに。


 死体は通りから見えずらい場所に隠す。


 探せば簡単に見つかるが、偶然通りかかっただけでは見つかりそうもない場所に。


 半数処理して、残りは七。


 今まで馬車も馬も見ていない。


 おそらく町の中心部、残りの敵兵が引っ張っているのだろう。


 王国側も町を焼いていない所を見ると、この町は時間稼ぎが目的らしい。


 根こそぎ物資だけを持って行けば、共和国兵は町を焼く前に虱潰しに探して回るしかない。


 搬送用の馬車を中央に持って行っているのは、物資が見つかった場合、そこに持っていくことになっているからなのだろう。


 中央に七人残っているのは、知らせを受けた時に搬送するために向かう人員を置いている。そんな所ではないだろうか。


 なんにしても、自分の目で見れば分かる。


 すでに散らばっていた共和国兵は全て始末した。なんの気兼ねもなく、観察できる。


 とはいっても、連絡が途絶えればすぐに気づかれるからゆっくりはできない。


 町の中央には大きな広場があった。


 集会場として利用されていたのかも知れなが、共和国兵がテントを設営している所だった。


 どうやら、ここで野営するつもりらしい。


 町の家屋を利用しないのは、罠の可能性を考慮した上でのことだろう。


 そういった所は徹底しているようだ。敵の指揮官の優秀さがよく分かる。


 テント設営中の共和国兵から少し離れた場所に、共和国の馬車が停められている。


 その様子を見て、俺は作戦を決める。


 七人も固まっていたら、ステルスでの処理は不可能だ。


 だったら、魔法を一発ぶち込んで立て直す前に処理をする……。


 問題は、少しばかり強そうな二人だ。このどちらかが指揮官だろう。


 出来れば先に無力化したい。頭を失えば後処理の難易度が各段に違ってくる。


 混乱した状況を立て直せる人間がいなくなるからだ。


 観察をすると、一人の男は積極的に設営をしている共和国兵に指示を出している。


 もう一人の男はゆったりと、腰を伸ばしたり、柔軟運動をしたりして時間を潰している。


 どちらを先に狙うか決まった。


 俺は手早く簡易の術式を完成させ、魔法陣を地面に展開する。


 すぐに効果は現れる。


 広場の中央から湧き出した白い霧が、一気に周囲に向かって広がっていく。


「敵襲だ! 全員備えろ!」


 すぐに指示が飛ぶ。判断が早い、実に優秀な指揮官だ。


 ただ、視界が完全に失われている中だと、それはありがたい。


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