第33話:西側警備
(花鈴視点)
「か……さん、花鈴さん」
寝ているところを誰かに体を揺すられつつ声をかけられる。重いまぶたを開けると綾乃ちゃんの顔が近くにあった。
「うわ! ……むぐっ」
大声で驚いた口を手で塞がれた。まだ外は暗い。
「静かに。佳那子さんと真夕さんが寝ていますから。交代の時間ですわ」
「ラジャー」
あたしは簡易的な寝間着をアイテムボックスにしまい、そのまま戦闘用のアーマーを換装する。
「……おはようございます。お疲れ様でした。僕と花鈴さんの番ですね」
「ええ、あとはよろしくお願いしますわ」
その後に付け加えて言う。
「ああ、そうですわ。今回も敵が西側から来ましたから、警備をするなら西側がいいかもしれません。砦の場所を聞いてませんでしたけど、どうやら西側にあるようですわ」
そういうと綾乃ちゃんは恭子ちゃんを連れてお風呂に向かった。あたしなら仕事後はそのままベッドにダイブしそうだが、それをやると怒られそうな気がする。
「じゃあいこっか」
「はい、よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくていいよ~」
「はぁ……」
あたしの気の抜けた返事を聞いて、梓ちゃんもなんか拍子抜けしたような顔をしている。梓ちゃんも寝間着からアーマーに着替えて準備をした。
外は暗く静寂している。綾乃ちゃんの話だと西側から敵が来て戦闘になったようだが、今はその様子が微塵も感じられない。
一応、街で警備を担当している人がいるのでのんびりと歩く。
「ふぁ~」
まだ寝起きのせいであくびが出てしまう。そんなあたしを梓ちゃんが見て不安そうな顔をしている。
「……あの~、大丈夫ですか?」
大丈夫ですか? ってどういう意味だろう? あまりあてになりそうもないな~って意味かな? まあそんなにいつも緊張してると疲れちゃうしね。梓ちゃんの緊張と説くべく軽口をたたく。
「大丈夫大丈夫。あたしだってどんどん強くなってるんだから。前衛はあたしに任せて後衛よろしく!」
大きくもないが控えめでもない胸を張る。梓ちゃんはそれ以上言わなくなった。まあ言えば言うほど自分の気が抜けていくとでも感じたのであろう。
西側の鉄くずの壁に辿り着いた。
普段の緊急時ならジャンプして飛び越えるところだが、緊急性がないので警備兵の人達が使っている階段を上っていく。
カンカンカンと謎の金属でできていると思われる階段を登っていく。静寂の中にその足音が響く。
てっぺんに着くと風が吹いている。気持ちよさそうな夜風ではあるが、今のあたしたちの身体ではその心地良さを感じることができない。感じ取れるのはダメージを受けた際のシグナルとなる程度の違和感である。少し切なさを感じる。元の身体ではないとできることとできないこと。今の身体ではないとできることとできないこと。
両方を欲しいと思うあたしは欲張りなのだろうか……。




